薔薇と宝石の約束




jewel.67
〈兄妹喧嘩 3〉







「つまり“バラの男の子”も、大阪に来てたって事だな?」

「…どうしてそういう話になるの?」


一瞬答えに間の出来た柚希から視線を外す事無く、コナンはジッと見つめる。


「大阪に行くときにはネックレスなんて着けてなかっただろ?」

「着けたのは途中からなんだから当然でしょ?学校で拾った彼の御守りをちょっと弄ってたら、中に何か入ってるのに気付いて、それがあのネックレスだったから懐かしくて着けてただけだもん。」 

「…御守り、ね。」


大阪湾の港で泣き崩れた柚希が、足元に落ちている物に気付いて、そっと拾い握り締めていたのには気付いていた。
それが、御守りだろうという事も。


「この前キッドと話した時、奴が言ったんだよ。“バラの男の子とキッドは同一人物だ”と思える事をな。」

「新一、からかわれたんじゃない?蘭に変装した時も、蘭を身ぐるみ剥がしたように思わせてからかわれたって、言ってたし。」


そう言って何処か馬鹿にしたように笑う柚希を、コナンはより一層低い声で呼ぶ。


「柚希。しばらく“バラの男の子”とは関わるな。」

「何それ?!何で新一にそんな事言われなきゃいけないの?!」

「オメーが知ってるかどうかは、今はもう良い。けどな、キッドの可能性がある以上、関わるのは危険だ!」

「危険なんかじゃない!彼はいつだって私の事を一番に考えてくれてる!!」


今までで一番声を荒げて言った柚希の言葉に、コナンは目を見開いた。


「柚希お前……もしかして、そいつと付き合って…」

「そうだよ。」


間髪入れずに答えた言葉に、コナンは再び不機嫌な表情へと戻る。


「ダメだ。そいつがキッドじゃないとハッキリしない限り、そんな事は許さねえ。」

「意味分かんない……新一だって応援してくれてたでしょ?!そんな事言われる筋合いないよ!」

「ろくでもない奴だったら邪魔するとも言ってあっただろーが!」

「彼はろくでもない奴なんかじゃない!!」

「オメーはっ…」

「そこまでっ!!」


突然開かれたテントの入り口から叫ばれた声に驚いた柚希とコナンが振り向くと、そこには目を細めた灰原と困った顔をした博士が立っていた。


「そろそろ子供達が戻ってくるわよ。いい加減終わりにしなさい。」

「だって新一が!」
「けどコイツが!」

「うるさい!」


お互いを指差しながら灰原に主張しようとするものの、スッパリと言われて2人共押し黙る。


「あなた達、くだらない兄妹喧嘩で子供達の楽しみを奪う気なの?そうじゃないのなら、今は残った文句も無理やり箱に押し込んで、隠しておく事ね。」

「あ、コナンくんと柚希お姉さんも此処に居たんだ!」


灰原が言い終わるや否や、再び開かれた入り口から顔を覗かせた子供達は、ちゃんと薪拾いの仕事を全うして来たようで、何処か誇らしげな
雰囲気を纏っている。


「そういえば、何か仕舞うものでも有るんですか?」

「え?」


光彦の言葉が何の事を言っているか分からずに柚希が聞き返すと、灰原の“無理やり箱に押し込む”の部分が聞こえていたらしい。


「ただのたとえ話よ。気にしなくて言いわ。」

「ふーん?」

「箱なら、薪拾ってる時に変な石の箱見つけたよな?」


灰原の答えに歩美が不思議そうな顔をしつつも納得すると、元太は思い出したように光彦に問い掛けた。
それを肯定する光彦に博士が石の箱?と繰り返す。


「はい。2箇所に丸い穴が空いている古ぼけた箱の様な石で、穴から中を覗くと、文字がびっしり刻まれていました。仁王の石がどうとかこうとか書いてありましたけど…難しい漢字が多くて…。」

「………なぁ、その石の箱を見つけた所に案内してくれねーか?」


光彦の言葉を聞いて何か考えるような表情をしたコナンがそう促すのを、柚希は不満そうな顔で見つめていた。










「で、何をそんなにピリピリしてるのかしら?」

「え?」

「普段のあなたなら、あんなムキになったりしないじゃない。」


子供達を先頭に森を進む最後尾、少し間を置いて歩いていた柚希の隣にいつの間にか来ていたらしい灰原がそう言うと、一瞬横に向けた視線を前に戻した柚希が、だって…と僅かに頬を膨らませる。


「心配してくれてたのに連絡しなかったのは確かに悪かったけど、私だって色々バタバタしてたし、蘭からのメールには返事したから伝わるだろうと思ってただけなのに、それをしつこい位怒られて……さらにそこから、唯でさえ進展の無い押し問答にイライラしてた所で新一が……。」


そこまで言って口ごもる柚希に疑問の視線を投げかけると、小さな声を絞り出す。


「悪く、言うんだもん……“彼”の事。私達の事、何も知らないくせに…キッドの可能性があって危険だから関わるなとか……。危険って何なの?快斗はそんな事言われるような人じゃない…。」

「……。」


俯いて足元を見て言った柚希は、静かに聞いていた灰原の瞳が僅かに見開かれていた事に気付かなかった。

update 2015.06.24
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