「暗号だけじゃないって、どういう事だよ?」
元太が不思議そうに言う中しゃがんで沼を覗き込んだコナンは、柚希の言葉の意味に気付くと片手を横に伸ばして柚希を後ろに下がらせる。
「なるほど…灯籠を沈めたのは、殺人を隠すためでもあったみたいだぜ?」
灯籠の隙間に見える人の手を見つめながら言うと、柚希とコナン以外が驚愕の表情を見せた。
jewel.69
〈兄妹喧嘩 5〉
主に博士とコナンが中心となって遺体を沼から引き上げると、検死とまではいかないが状態を確かめ始める。
「やっぱり、殺されてからまだそんなに時間は経ってねぇみたいだな。首に残った索状物の跡からすると、絞殺された後沼に沈められ、浮かんで来ないように上に灯籠を積み上げられたってところか…。」
「い、一体誰が!?」
「さあな…お宝絡みだという事は確かだろうぜ。」
言いながら遺体の服を調べると、運転免許証を持っていた様で、
玉井照尚42歳だと判明した。
コナンは兎も角、子供達までが僅かに怖がる素振りを見せつつもしっかりと遺体に目を向けている事に、柚希は驚く。
(この子達、新一に巻き込まれてどれだけ危険な目に合ってるのか心配になる……。取りあえず快斗の仕事の邪魔以前に、此処には長居しない方が良いだろうな。)
殺人犯が潜んでいるのなら、早い内に此処から離れるべきだろう、そう思いながら辺りに注意を払っていると、コナンが遺体のズボンの裾に何かが入っている事に気付いて手に取る。
(これは…石で出来た
勾玉だ…。“炎”って刻んであるな…)
「まさかそれが仁王の石か?」
「でもダイヤじゃないですよ?」
「コレ!人が亡くなっておるのに宝の話ばかりするでない!」
コナンの手元を覗き込む光彦と元太の言葉に、博士はさすがに良くないと注意をする。
「とにかく、博士は車に戻って警察に連絡してくれ!ここじゃ繋がらねーから。」
「あ、あぁ分かった!…と、そうじゃ柚希君、頼まれた通りにホルダーを改良しておいたぞ。」
「ありがと博士。」
コソッと渡してくれた携帯ブレードを受け取ると博士の影に隠れてすぐに装着し、アイコンタクトの後博士が走り出すと柚希は子供達を笑顔で振り返る。
「さ、私達はテントに戻って博士を待とうね。」
「ええーっ?!」
「お宝探さねぇのかよ?!」
「暗号解読しましょうよ!!」
思い切り不満の声を上げてくる子供達に、柚希が困ったように眉を下げながら、でもね…と説得しようとすると、それに被る様にコナンが怒鳴る。
「バーロ!この人を殺した犯人が、まだこの近くに居るかもしれないんだぞ!?殺されてーか!?」
「でもー…。」
(子供相手にそこまでキツく言う事ないじゃない…あの子達、割と聞き分けの良い方なんだし………?!)
突然、視線を感じた気がして屋敷の方を振り向くが、ここから見た限りは誰かが居そうな様子はない。
気のせいだと良いんだけど、と思いながら柚希は再び屋敷に背を向けた。
「この人だって名前が分かっただけで、何者かまだ分かってねーんだぞ!」
「トレジャーハンターみたいね。」
「え?」
「哀ちゃん?」
いつの間にか遺体の持ち物を探っていた灰原は、見つけた手帳を捲っては読んでいる。
ここから離れようと言っているのに、下手に興味を持つ情報が出て来たら新一も乗り気になりかねない。
そう思って止めようとするも既に遅く、灰原が読み上げるのをコナンもジッと聞いている。
「彼の手帳は日本各地に散らばった財宝の資料や、地図で埋め尽くされてるわ。この三水吉右衛門の宝の探索経過も、詳しく書き込んであるわよ…。“なかなか使える相棒と組めたし。これならあのキザなコソドロも出し抜ける。何度も煮え湯を飲まされた、あの手品師を…”。」
「……。」
読まれた内容と考え込むコナンの姿に、柚希は思わず両手で顔を覆って息をついた。
「もうコナンなんかほっといて、俺たちだけで探そうぜ…。」
「そ、そうですね。」
「でも、コナンくんが居ないと暗号が…。」
コソコソと話し合う子供達に、コナンの様子を見た灰原が大丈夫、と笑った。
「イグニッションキーは、もう回されたみたいだから…。」
「……哀、余計なこと言わないで欲しかった…。」
灰原のすぐ側にしゃがみ、周りに聞こえない様小さな声で言うと、柚希を見つめた目が細められ、面白いとでも言うような表情を向けられる。
「ふぅん。つまりあの怪盗は、“彼”ってワケね。」
「っ?!どうしてそんな話に…」
「なるほど?今回はまさに…“ダイヤモンド カット ダイヤモンド”の始まりなのかしら?」
驚く柚希を余所に、周りにも聞こえる声でそう言うと、歩美と元太が何の事が聞いてくる。
「ベルギーのことわざよ。硬いダイヤを削るにはダイヤを使わなきゃいけないでしょ?だから智者同士、強者同士の冷静で凄まじい戦いの事をそう言うのよ。」
「でも一体、誰と誰が戦いを?」
「バーロ…俺もアイツもダイヤモンドなんて大層なものじゃねーよ…。アイツは真実をベールで覆い隠して面白がってるただの泥棒で、俺はそのベールを剥ぎ取りたくてうずうずしている…ただの探偵さ。そうだよね?……柚希ねーちゃん。」
これからの戦いを考えながらニヤリと笑ったコナンは、柚希を真っ直ぐ見つめながら低い声で問い掛けた。
update 2015.06.30