薔薇と宝石の約束



(色々とタイミングが悪すぎる…)


ポツポツと降り出す雨の中、意味深な視線を強く向けてくる小さな兄の姿を見ながら立ち上がると、ため息を吐きたくなるのを何とか抑え込み、挑発的に口角を上げた。


「さあ…どうだろうね?」





jewel.70
〈兄妹喧嘩 6〉







「で?誰なんだよ、その泥棒って…。」

「もしかして沼の中に沈められていた、このおじさんの仲間ですか?」


説明も無しにどんどん進む会話に、元太が尤もな疑問を口にすると、漸く柚希から視線が外れる。


「いや、ビックジュエルっていう、でっけー宝石ばかりを狙う…怪盗キッドという名のキザな悪党だよ。」

「「「か、怪盗キッド!!」」」

「キッドさんが来てるの?!」

「この前のお城では結局会えませんでしたしね!」


本日何度目になるのか目を輝かせた子供達が、キッドについて嬉しそうに話す様子を、コナンは不満そうな顔で聞いている。


「博士に聞いてるわよ、あなた達2人の戦いぶり…。結構やられ気味だそうじゃない?」

「別にやられちゃいねーよ…。お宝は毎回盗られてないんだからよ。」

「お宝は盗られてなくても、大事な子を盗られたりしてね…。」

「?!」


目を見開くコナンの表情を見ると、灰原は満足そうに笑って、冗談よ…と言った。
眉を吊り上げ、オメーなぁ!と声を荒げそうになった所で、歩美がコナンの袖を引く。


「ねぇコナンくんってば!…キッドさん、ここに来てるの?」

「かもしれねぇって話だよ。このおっさんの手帳に書いてあっただろ?“これならあのキザなコソドロを出し抜ける”って。そのコソドロっていうのが、多分キッドの事だよ。」


コナンの言葉に光彦と元太がえっ!と声を上げた。


「じゃあもしかしてこの人を殺したのは…。」

「キッドなのかよ?!」

「さあな…奴は殺しはしねぇって噂だけど…」

「噂じゃない!」


突然大きめの声で割って入った柚希を、皆驚いて見上げる。


「キッドは絶対に殺人なんてしないよ。」

「どうして分かるの?柚希お姉さん。」


無垢な質問は時に何より怖い。
そんな事を考えながらも、友達のお父さんが長年キッドを追ってる刑事で、その人から聞いたのだと説明すれば素直に信じてくれるので助かる。
嫌な視線を送ってくる、明らかに疑っている者もいるが。


「……まぁ兎に角、雨も降ってきたし、雨宿りがてらあの屋敷に入ってみるとするか。」

「え?じゃあ…。」

「お宝探し…。」

「始めるんですね!」

「勘違いするなよ?博士が警察をここに呼んで来るまでの間だけだからな。」


やったー!!と大喜びする子供達とは反対に、
柚希は驚いてコナンに詰め寄る。


「ちょっと、いくら何でも危ないよ!さっきは自分だって止めてたでしょ?!」

「危ない事はさせねえよ。それとも、探られちゃ困る事でもあるのかよ?」

「そういう問題じゃない!殺人犯が居るかもしれないのにっ…!」


不意に服の裾を引かれ、視線をそちらに落とすと灰原の姿。


「もう無理よ。諦めるのね。」


その言葉に今度こそ引き返すのを諦めた柚希は、屋敷の入り口へ向かいながら子供達に絶対勝手に動いちゃダメだからね!と何度も言い聞かせた。










着いた時から思ってはいたが、改めて目の前で見ると荒廃したその様子に寒気すら感じてしまう。


「しかし、いざ入るとなるとかなり不気味な屋敷ですね…。」

「ホントにこの中にお宝があんのか?」

「この辺の何処かに隠してあるのは確かだよ………ん?」


ふと動きを止めるコナンを不思議に思いその視線を辿ると、屋敷の壁と地面の境目が汚れている事に気付く。


(濡れた土の跡…?それも一部だけじゃなく全体に……まるで、一度そこまで水に沈んだみたい…。…もしくは、屋敷自体が上に…?)


どうしてそんな跡が付いているのかと考えていると、子供達は先程の暗号の意味が気になるらしくコナンに聞いている。


「ああ、あれか。要約すると、仁王が寝ている場所は太陽に一番近くて、老人達の集まるすごく賑やかな所。そこに仁王の石…つまりダイヤモンドが隠してあるって事さ!」

「おお!」

「さすがコナンくん!」

「すごーい!」

「気になるのはその後の言葉よね…。仁王の怒りを恐れぬ者よ、拳から溢れるような大きなその石を手に入れて、昔からの謂われを悟りなさい…。」

(そう、それが気になってた…。“謂われを悟れ”って、見つけた宝を素直に手に入れられるようには聞こえないんだよね…)


灰原の言葉を聞いて、柚希は軽く握った手を口元に当てて考え込む。


「それと、さっきの死体がズボンの裾に隠していた……この“炎”と刻まれた、石で出来た勾玉。これがその暗号とどういう関係があるのか、まださっぱり分からねぇ…。あの死体が持っていた手帳には、他に何か書いてないのか?」

「書いてあるようだけど…ぐっしょり濡れているから、乾くまで待たないと破れて読めなくなりそうよ…。」


会話を聞きながら再び屋敷の縁を見つめていた柚希は、視界の端で動く影に気付いて振り返った。


「そんなの待ってられっかよ!」

「元太君!勝手に動いちゃ駄目っ!」

「ダイヤモンドは太陽に一番近い所にあるんだろ?だったら、ダイヤモンドは家の一番てっぺんに隠してあるに決まってんじゃねーか!」


止める声を聞かず1人で階段に向かう元太を、柚希は慌てて追いかける。


「バカ!迂闊に入るな!この屋敷は絡繰吉右衛門が建てたんだぞ!どんな仕掛けがしてあるか……」


コナンの声に耳を貸す素振りも無い元太が階段に足を掛けた所で、こら!と声を上げながら柚希が左腕で元太を抱え上げた。
そして頭にコツンと軽く拳を当てて注意しようとした途端、目の前の階段がガコンと音を立てて急な坂へと変わる。


「えっ!?」


次の瞬間、足元を支えていた床板が突然消え、柚希は浮遊感に包まれた。

update 2016.4.25
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