薔薇と宝石の約束




「柚希か?俺だけど……あぁ、これコナンの方の携帯なんだよ。…一応こっちも登録しといてくれ。」


学校からの下校中、元太達3人から少し距離を置いて電話しながら歩くコナンの横で、灰原が呆れたような目でその様子を見ていた。


「今日この後お前の家に行くから。……何でって、防犯面とか見て確かめねーと……そんなの、また後にしてもらえば良いだろ。こっちは早い方が…………お、おい!柚希!!」


一方的に電話を切られたコナンは、不満げな顔で手元の携帯を見つめる。


「だから言ったじゃない。転入初日にクラスメイトが放っておく訳ないんだから、すぐには帰って来ないわよ。」

「でもよ、どう考えたってこっちの方が大事な用事だろーが。」

「あら、私が確かめただけじゃ納得いかないのかしら?」

「い、いや、そういう訳じゃなくて…自分で確かめねーと心配なんだよ。ただでさえあいつは、一人暮らしは初めてなんだ。」


わざとらしく言う灰原にコナンは少し焦ったように弁解する。


「ずいぶん過保護なのね。」

「そりゃあ、大事な妹だからな。まぁ、それだけじゃねぇけど…」


灰原はどういう事?と聞こうとしたが、コナンの真剣な横顔に、思わず口を噤む。


「コナンくん!灰原さん!早く早く!!」

「おー!」


歩美の声に返事をすると、コナンは歩くペースを上げる。


(ま、きっと必要な時がくれば分かるわね。それにしても、今一緒に居る友達が例の彼だなんて、思ってもみないんでしょうね…)


少し前に柚希から届いた『哀、奇跡が起きたの!帰りに2人でお茶するんだよ!!』というメールを思い出し、灰原はフッと笑った。










「送ってくれてありがとう。」

「男が女の子を送るのは当たり前だろ?俺が誘ったんだし。」


あれからしばらく雑談してから、快斗に家まで送ってもらう事になり、お礼を言うと、当然という顔をする。


「そういやお前の兄貴、防犯面の心配してるって言ってたよな?」

「うん、心配しすぎだよね。」

「俺は妹いないから分かんねーけど、きっと兄貴なんてそんなもんじゃねぇの?」


呆れたように言う柚希に、笑ってそう言いながら、快斗は上を見上げる。


「柚希の部屋って何処?」

「えっと…そっちの、3階の左から2番目」


柚希が指を差しながら教えると、快斗は部屋を中心に、周りをキョロキョロと見始める。
それを不思議そうに見ていると、急に快斗が振り返った。


「うん、下から伝って登れるような所もないし、ベランダは隣同士が離れてるから横からも無理、上は屋上が無い作りだし、周りに此処より高い建物もないから上から降りてくる事も出来ない。外からの侵入は無理だから安心して大丈夫だぜ!……空でも飛ばない限りはなっ。」


次々と説明する快斗をポカンと見ていた柚希だが、こちらに向かってイタズラっぽい笑顔で付け足した台詞に、思わず笑ってしまう。


「なるほど!じゃあ絶対に無理だね。」

「まぁあくまでも外からの話だから、鍵はちゃんと掛けろよ。女の子の一人暮らしなんて危ねーんだから、夜も出来るだけ出掛けるなよ?」

「うん、心配してくれてありがとう、快斗。また明日。」


片手を挙げながら去っていく快斗の後ろ姿を見送ると、昨日越してきたばかりの自分の部屋へ入る。

まだ荷物の少ない部屋のベッドにポフッと座ると、今日の事を思い出し、赤くなる頬に両手を当てた。


(まさか、本当に会えるなんて……しかも覚えてくれてた…これ、夢じゃないよね)


−ピロリン


メールの着信を告げる短い音に我に帰ると、携帯に手を伸ばす。


(園子からだ…)


園子からの久しぶりのメールには、蘭から帰国したのを聞いたから、近いうちに会おうという誘いと、鈴木財閥に送られてきた、怪盗1412号からの予告状の話、そしてその画像が映っていた。


(怪盗1412号……何となく聞き覚えがあるような気がするんだけどなぁ)





jewel.8
〈白き奇術師との邂逅〉
−漆黒の星編・前編−







−ピリリリリ


園子からのメールを見つめながら記憶を辿っていると、携帯が本日2度目のコナンからの着信を告げた。


(さっき勝手に切ったの怒ってるかなぁ…)


快斗と居るときの電話を思い出して出るのを躊躇うが、無視する訳にもいかないので仕方なく通話ボタンを押す。


「はい。」

《おー、柚希。もう家か?》

「うん、そうだけど。」

《ちょっとオメーに聞きてぇ事があるんだよ。》

「え、聞きたい事?」

《あぁ。実は園子の家に、盗みの予告状が届いたらしくてな…》


(なるほど、事件に興味が向いたからさっきの事は忘れてるって事ね…)


ケロッとした態度のコナンに呆れつつも、文句を言われる覚悟をしていた柚希は安心した。


「月が二人を分かつ時
 漆黒の星の名の下に
 波にいざなわれて
 我は参上する」

《え、何でお前がそれを知ってんだよ?》

「さっき園子からメールで送られてきたからね。」

《なるほど……。》


思い浮かぶ園子の浮かれた様子に、コナンは呆れた顔をした。

update 2014.10.15
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