「危ないっ!!」
まるで滑り台のように姿を変えた階段の下、柚希が立つ足元の床板は、パカッと口を開き深く続く闇へと誘う。
落ちると感じた瞬間、元太を抱える左腕にしっかりと力を入れ、右手は階段の手摺りを目指して延ばす。
「っ!!」
「柚希!!」
掴み損ねた…そう思った時、突然腕を掴まれ浮遊感が消える。
その腕の先を見上げると、見ず知らずの男性の姿があった。
「今引き上げてやるから、そのガキを離すなよ。」
jewel.71
〈兄妹喧嘩 7〉
ゆっくりと引き上げて貰い大きく息を吐いた柚希は、すぐに立ち上がると助けてくれた男性にお礼を言う。
「目の前で落ちられたら気分悪いからな。それで?お前らも吉右衛門の宝探しか?」
「まぁ成り行きで…。」
「気を付けな、この階段はトラップだ。上に登りたきゃもっと奥に行かねえと。絡繰吉右衛門はかなりのひねくれ者だ…。目に見えたものを鵜呑みにして動くと痛い目に遭うぜ?」
後半は元太を見ながらそう注意を促した男性は、妙な石を見つけなかったかと聞いてきた。
すぐにあの勾玉の事かと気付いて歩美が言おうとするが、コナンがそれを遮る。
「見つけてないよ!何も。」
「私もずっとこの子達を見てたけど、何も見つけた様子はありませんでしたね。私も見てないですし。」
「ホー、そうかい?んじゃ、見つけたら教えてくれよな。」
「うん!」
勾玉の事を隠したコナンと柚希に、子供達は何故嘘を吐くのかと小声で聞いてくる。
きっと、さっき助けてくれたから良い人だと認識しているのだろう。
子供のうちから人を疑う事はして欲しくはないが、今はそうは言っていられない。
「良い人とは限らないわよ。仲良くなって、石の勾玉を奪い取る気かもしれないし。」
「ああ…あいつがキッドなら、尚更そうするだろうぜ。さっきの男を殺した犯人だとしてもな…。」
「「「ええっ!?」」」
灰原とコナンの言葉に驚いている子供達に、柚希は同じく声を潜めて言う。
「まぁ取り敢えず、今はあの人について行った方が良いね。この屋敷の仕掛けも知ってるみたいだし。」
「警察が来るまで逃がさねえ為にもな…。」
3人が頷くのを確認すると、コナンを筆頭に男性の後を追う。
そのまま屋敷の奥へと進んで行くと、歩美が何かを見つけて駆け寄り、元太と光彦もそれに続く。
「あ、鯉さんだ!いっぱいいるよ!」
「家の中に川が流れているなんて、高級料亭みたいですね。」
「そういえば、さっきの沼に鯉がいたって言ってたよね?」
「ええ、外と繋がっているのかしら。」
柚希と灰原が同じく鯉を覗き込みながらそう言うと、元太が橋があると言ってそちらへ進む。
「ん?は、橋の先に…落とし穴?!」
腕時計型ライトに照らし出されたそこは、床板が僅かに下に下がっていて、踏んだら落ちてしまいそうに見える。
「今度は引っ掛からねーぞ!」
「いや、そう見えて実は…。」
踏み留まった元太の目の前で男性がその床板に足を掛けると、下がるように見えた板が逆に上へと開き、現れた鎖に繋がれた板がゆっくりと上へ上がって行く。
「すげえー!」
「まるでエレベーターですね!」
喜んで飛び乗る子供達に続いて柚希も足を掛けると、コナンが壁際の太い柱を気にしているのに気付く。
「コナンくん!早く乗らないと!」
「あ、おう。」
(……大黒柱としても太すぎる位の柱が、中心じゃなくて屋敷の奥にあるって、どういう事なんだろう…)
恐らく同じ様な疑問で柱を見ていたのだろうコナンも乗り込むと、ギギギと錆びた音を立てながら上へと運ばれていく。
「つまり上に行こうとすると下に、下に行こうとすると上に行く仕掛けになっているんですね!」
「タネが分かれば簡単だな!」
(!?)
−−カッ!!
何かが迫る気配に、咄嗟に元太と光彦を抱え込むようにすると、柚希の腕のすぐ横の壁にナイフが音を立てて刺さった。
「バカね…そんなに簡単なら、探すのに苦労しないわよ。そうでしょ?子連れのトレジャーハンターさん?」
声の方を振り返ると、女性の姿。
その手元にあるナイフは刺さったのと同じ物で、彼女が投げたのは間違いないようだ。
「このガキ共は連れじゃねえよ。それに、ガキ相手に刃物はどうかと思うぜ?」
「いえ…その人が狙ったのは、こっちみたいですよ。」
柚希が壁から抜いたナイフの先を男性に見せると、そこに刺さった
毒蜘蛛の姿に目を見開く。
「ど、毒蜘蛛?!」
「そんな毒蜘蛛を放してるなんて、吉右衛門って人、ひねくれ者の上に相当意地悪だったようね…。」
灰原が冷静に言う横で、子供達が女性の事をキッドの変装ではないかと話しているのが聞こえてくる。
(彼女は違う。助けてくれたとはいえ、快斗なら万が一でも子供達に危険のある方法は取らない…)
まだその辺に毒蜘蛛が居るから気を付けるようにと、子供達を少し脅かしながらも注意している女性を見つめてから、柚希は先へ進もうと促した。
update 2016.5.2