薔薇と宝石の約束




「あら、おばーさんもライバル?」

「ん?」

「あんたもトレジャーハンターなんだろ?」

「レジャーなんぞに来ておらんわ。ワシは墓参りしたかっただけじゃ…。」


女性と男性からの問い掛けにそう答えた老婆は、自分の後方にある石へと視線を向ける。


「あの、吉右衛門さんのなぁ…。」





jewel.73
〈兄妹喧嘩 9〉







老婆の示した方を見ると、確かに墓石の様に見える、文字の刻まれた石が置いてある。
その側へと歩いて行くと、見えた文字は三水吉右衛門の名こそ入っているが、墓のそれでは無かった。


「迷ひし者
 我に神器(じんぎ)
 供へよ

    三水吉右衛門」


(…神器?)

「ちょっとおばーさん?これって暗号なんじゃないの?」


女性が老婆にそう言うのを聞きながら、柚希は灰原の肩をそっと叩いてしゃがみ込む。


「ねぇ哀ちゃん、“神器”って言ったら、あの勾玉からして“三種の神器”だよね?」

「どうして私に聞くのかしら?こういう事は、江戸川君の専門でしょう?」

「……今は出来るだけ話したくない。」


呆れた表情を向けられているのは分かったが、生憎今の柚希にそれを解消する術はない。


「分かってはいるんだよ、今はそんな状況じゃないって。でも、売り言葉に買い言葉っていうか…今話したら、何の話でもさっきみたいに言い合いになっちゃうと思うから…。」

「……まぁ良いわ。多分江戸川君に任せておけば平気だとは思うけど、もしも伝える必要のある事があれば、私が代わりに言ってあげる。」

「哀……ありがとう。」

「周りの事を忘れて大喧嘩されるよりマシっていうだけよ。」


言い方は冷たいが本音ではないと分かっている柚希は、嬉しそうに微笑んだ。


「ねぇおじさん!さっき僕達に聞いてたよね?妙な石を見つけなかったかって。」


ふいに男性に質問をするコナンの声に、何か気付いたのだろうと灰原と柚希は目を合わせてからそちらを振り向く。


「だったらおじさんも持ってるんじゃないの?妙な石を。」

「何?」

「実は僕達もさっき見つけたんだよ。石で作られた神器の1つをね。」

「ちょ、ちょっとコナンくん?!」

「それは内緒だって言ってたじゃんかよ!」


光彦と元太が驚いてコナンに迫ると、それに被せる勢いで、男性はコナンに何て書いてあったのかと問い詰める。


「お前らが見つけた石にも何か文字が入っていたんだろ?!」

「やっぱりおじさんも見つけたんだね!」


簡単に乗せられた男性は、笑顔でそう言うコナンにしどろもどろになる。


「あら、この状況で情報の独り占めはあまり頭の良い考え方とは思わないけど?」

「そうそう。仲間外れにされたくなければ、さっさと見せてご覧よ。」


灰原と女性に追い討ちを掛けられ、男性は舌打ちしながら鞄を開けた。


「分かったよ…。俺が見つけたのは……この石で出来た鏡だよ!」


取り出したのは円盤の形をした石で、片面には模様が彫られ、その中心に文字が見える。


「書いてある文字は永遠の“永”ですね。」

「じゃあ、やっぱり太陽に関係があるんじゃねーのか?ずーっと燃えてんだからよ!」

「ふーん。じゃあ君達が見つけた勾玉には“炎”とでも書いてあったのかしら?」

(あれ?この人、どうして……)


元太の言葉を聞いて当ててみせた女性に柚希が違和感を覚えると、コナンは不敵な笑みを見せながら勾玉を見せる。


「ああ。大正解だよ、お姉さん。」

(……新一が気付かない訳ないか)


その表情から、自分の感じた違和感の正体まで分かっているのに気付くと、これ以上考えるのは無駄と感じて柚希はモヤモヤしつつも思考を切り換えた。


「しかし分からねぇな…“永”と“炎”の意味が…。」

「もしかしたら、墓石のどこかにその石をはめ込む所があって、何かの仕掛けで仁王の石・ダイヤモンドが出てくるんじゃないでしょうか?」

「どうしてそうなるの?」


考え込む男性に光彦が自分の考えを言うと、歩美は不思議そうにそう聞いた。


「だってほら、沼に沈んだ灯籠の中に刻まれた文字にあったでしょ?ダイヤがあるのは老人達が集まる賑やかな場所だって!」

「仁王の(ねぐら)
 日輪と咫尺(しせき)の間
 長老あまた集へる
 甚だしき殷賑(いんしん)の地
 其処に仁王の石は在り

 仁王の憤怒
 畏怖せざる者よ
 (こぶし)に溢るる其の石を
 手中に収め
 万古よりの(ことわり)
 識得すべし

 三水吉右衛門……」


突然、灯籠に刻まれていた文字を読み上げたのは老婆の声。


「このやせ細った(しかばね)の山を“長老あまた集へる甚だしき殷賑の地”になぞらえたいのじゃろうが、此奴らは欲に目が眩み、出口を見失のうて朽ち果てた愚か者共じゃ…。吉右衛門さんがこの屋敷を建てた時には1人もおりゃせんよ。」

「じゃあ、おばあさんもあの灯籠を見たんだね?」

「ああ…沼には沈んでなかったがのぉ。」

「とにかく、宝石は此処にはなさそうね。この墓石に石をはめ込む仕掛けもないようだし…。」


墓石を調べていた女性がそう言うと、それを後ろから見ていた男性も同意する。


「やっぱりもう1つの神器を見つけねぇと謎は解けそうにないか。」

「…もう1つって?」


歩美の不思議そうな声が静かに響き渡った。

update 2016.6.13
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