薔薇と宝石の約束


「もう1つって?」

「三種の神器と言ってね、見つかったのが鏡と勾玉なら何処かにもう1つあるはずよ。鏡は八咫(やた)の鏡、勾玉は八尺瓊(やさかに)曲玉(まがたま)、そして残る1つは、その昔野に火を放たれ窮地に追い込まれた日本武尊(ヤマトタケルノミコト)を、草をなぎ払って救いその名が付いたという神剣…。」





jewel.74
〈兄妹喧嘩 10〉







「“草薙(くさなぎ)(つるぎ)”…。」


歩美の疑問に灰原が説明すると、その名前に聞き覚えのある光彦と元太は嬉しそうに声をあげる。


「ああ、その名前なら知ってます!」

「よくゲームに出てくるスゲー刀だろ?……つーかよ、その鏡とか勾玉って本物なのか?」


元太の疑問に光彦がうーん…と真剣に考える。


「ここにあるのは石だから違うとしても、神話に出てくる位ですし、架空の物なんじゃないですか?」

「一応、本物と言われる物はあるよ。鏡は伊勢の神宮、剣は熱田神宮、勾玉は皇居に安置されてるの。尤も、神体として祭られているそれを目にする事は誰にも許されていなくて、本当に現存するかは分からないんだけどね。」


さらりと言う柚希に灰原が随分と詳しいのね、と言うと苦笑いする。
新一程では無い物の、やけに知識が多いのは一緒に育ってきた環境故か。


「とにかく…その剣に刻まれた文字を見れば、何か分かるかもしれないわね。」

「フン…宝探しより先に、この地下牢のような部屋から抜け出る方法を考えた方がよいんじゃないかのぉ?」


老婆にそう言われた女性は、ニヤリと意味深な視線を男性に向ける。


「あら…ここからの脱出方法ならその人が知ってるはずよ。1回此処へ来て墓石の文字を読まなきゃ、そんな石の鏡を大事に隠し持ってるわけないものね。」

「へいへい…案内しますよ…。」


仕方なくといった様子で出口への道を進む男性の後ろを歩きながら、柚希はキッドの事を考える。


(ここまで、キッドの痕跡が何も無かった。彼の今回の仕事が此処じゃなかった可能性も考えられなくはないけど、それにしては条件が合いすぎてるし…。というか、そもそも本当にキッドが此処を狙ったなら、もうとっくに暗号は解けてるはず……やっぱり、私達も暗号を解くしか確かめようが……ん?)

「あれ?床が濡れてるよ?」


柚希が足元に違和感を感じると同時に、歩美が声を上げた。


「何処かから水が………あった!あそこです!」

「何だ?このズレたような跡…。」


光彦がライトで照らし出した先を見ると、通路の頭上に組まれた木材が微妙にズレたような跡が有り、そこから僅かに水が流れ込んでいる。


「そういえば、ちょっと前に1度地震があったな。」

「それで屋敷がズレて、地下水があふれ出たのね。」

「え?地震なんてありましたか?」


男性と女性のその会話に、光彦は驚いたように聞いた。


(……私達は地震なんて気付かなかった。でも、それが私達が屋敷に来る前だとしたら……)

「こりゃあ吉右衛門さんの言う通り、仁王様が怒っておるやもしれんのぉ。宝探しなんぞ止めにして、早く帰れとなぁ。」

(!?)


老婆の言葉に目を見開いた柚希は、口元に手を添えて考えを巡らせる。


(“仁王の憤怒、畏怖せざる者よ”…まさか、謂われを悟れっていうのは……。そう考えれば、屋敷の外の妙な土の跡も、この地下道のズレた跡も説明がつく。だからと言って今更宝探しを止めさせるのも無理だし…。)



柚希は手を下ろして、前を進む3人にそっと視線を向ける。


(快斗の事だから、何か手を打ってはあるんだろうけど、トレジャーハンターなんてやってるあの人達が素直に諦めてくれるかどうか………最悪、見つけた所で私が直ぐに戻すしかないかな…。)

「ねぇ…沼に沈められてた男が持っていた手帳…。」

「ん?」


後ろから聞こえた灰原の声にコナンが返事をするのと同時に、柚希もそちらへ耳を傾ける。


「乾いて読めるようになったけど…どうやらあの男、組んでた相棒に殺されたみたいよ。“4月28日、やばい奴と組んでしまった…殺される…見つけたこの石を隠さなきゃ奴に殺される…相棒を殺して宝独り占めするっていうあの毒鼠(どくねずみ)に…”。その後は破られてて読めないわね。」

「それにしても読みにくい字ですね。」

「ええ、鉛筆で書かれていて、薄くなったり汚れたりしているから。」


灰原の手元の手帳を覗き込んだ光彦の言葉にそう同意する横で、コナンは何やら手帳を見つめたまま考え込んでいる。

その様子をちらりと見てから柚希が視線を前に移すと、いつの間に離れたのか、元太が先の3人の側まで進んでいた。


「おお!」


ガラリと音を立てて開かれた扉の先を見て声を上げる元太の元へ、柚希は足早に近付く。


「すげえー!!滝がいっぱいだぞ!!」

「こら!1人で先に行っちゃ駄目でしょ?」


目の前に注ぐ何本もの滝に目もくれず、元太の頭上に軽く拳骨を落としながらそう言えば、どこか不満そうに見上げてくる。


「別に1人じゃねーだろ?あのおっさん達が居るじゃんかよ。」

「あの中に殺人犯が居るかもしれないって言ってたでしょ?お願いだから皆で一緒に行動して。ね?」


出来るだけ優しく、そして前の3人には聞こえないように言うと、元太は分かったよ…と光彦の側へと進んで行った。
それを確認してから、改めて目の前の滝に目を移す。


(それにしても凄い湯量…。滝は…8本、か。しかも、向こうの支流も8本に分かれてる…。なるほど、草薙の剣…ね。)

「全くよく作るよ、こんなの…。」


既にその支流に向かって歩き出しているコナンの姿を見ながら、柚希は小さく零した。

update 2016.7.1
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