柚希が快斗扮する老婆に声を掛けられていた時、コナンは刃の仕掛けを作動させる為、重さを感知する床へと踏み出した。
jewel.76
〈兄妹喧嘩 12〉
「刃が四方から来て、ちゃんと四方に収まるって事は…微妙にタイミングをずらして、ぶつからない様になっているって事。」
「コ、コナンくん?!」
コナンに向かってくる刃に歩美が不安そうに声を上げる中、コナンはニヤリと笑いながら後ろから迫る刃を見据える。
「しかも…こんな取っ手が付いてるって事は…この刃を利用してあの剣の元へ……」
刃の横面に付けられた取っ手を掴んだコナンは、その反動を利用して剣の刺さる台座へと飛び乗る。
「行けって事だよ!」
「おーっ!」
「向こうに着きやがった!」
「コナンくんすごーい!!」
笑顔で賞賛する子供達とはうって変わって、大人達は真剣な表情でコナンに問う。
「も、文字は!?」
「剣には何て書いてあるの!?」
「竜……。」
これで3つの文字…“永”と“炎”と“竜”が揃ったが、これが何を意味しているのかはちょっと考えただけでは分からない。
「さすが吉右衛門さんじゃ!竜の炎に焼かれるが如く、永遠に悩み苦しめという事じゃろう!」
(“竜”の“炎”に焼かれるが如く“永”遠に悩み苦しめ…ね。その場で良く考えるなぁ、やっぱ快斗って頭の回転すごく早いよね…)
宝探しは止めて帰ろうと言う老婆に“さっきは目の色変えてたくせに”と呟きながら不服そうな顔をしている元太を横目に、柚希は1人感心していた。
「コナン君、こっちに戻って来れるー?」
歩美の声でコナンの方に意識を向けると、剣を元の場所に戻したまま、動こうとしない。
もしかして、と柚希が考えた所でこちらを振り返ったコナンは、小石を床に落として仕掛けを発動させると、再び刃の取っ手を利用して戻って来た。
「あら、その得意気な顔……何か分かったのね?」
「いや…尻尾巻いて帰ろうっていう、情けねぇ顔だよ。」
結局神器の言葉の謎も、灯籠に書かれた暗号もさっぱり分からない。
そう話しながら再び出口までの道を歩くと、途中で女性と男性は他を調べると言ってそれぞれ別の方向へと去って行く。
その去り際、男性は老婆に子供達をちゃんと出口まで連れて行くようにと声を掛けた。
(あの2人のどちらかが殺人犯の毒鼠…。こんな事で犯人から除外するのはダメだと分かってるけど、あの男性は何だかんだで子供達を気に掛けてくれてたし、違うと思いたいな…。それに、女性のあの言葉も気になる…)
老婆の正体が快斗だと分かって犯人は2択になったとは言え、断定する材料がまだ足りない。
子供達の安全を考えるとこのまま屋敷を離れられれば一番だが、確実に暗号が解けた上で大人を遠ざけようと分からないフリをしているコナンに、それは諦めるしかないと柚希は小さくため息を吐いた。
「やっと出られたー。」
「もう外は真っ暗ですね。」
「博士、まだ来てねえみてーだな?」
久しぶりに吸う外の空気に開放感を覚えつつ辺りを見回してみるが、博士と警察の姿は何処にも見当たらない。
「博士?」
「ホントは博士がお巡りさん連れてここに来る事になってたんだけど…。」
歩美がそう説明すると、老婆は訝しげな顔を見せる。
「…警察じゃと?」
「実は灯籠が沼に沈められてるのを見つけた時に、警察に届ける必要があるモノも見つけちゃって。」
「柚希ねーちゃん?!」
犯人かもしれない人物に何を言うつもりだとでも言いたいのだろう、声を上げるコナンを柚希は無視する。
「だから、博士にそれを警察に届けてもらいに行ったんです…」
ここまでは快斗に向けての言葉。
ハッキリとは言えないが、何か事件が起きたという事はきっと悟ってくれるはずだ。
上手く行けば、もう1つの意味も。
そしてさらに、コナン達に向けてのカモフラージュの言葉を続ける。
「怪盗キッドの予告状をね。」
「ホー、あの大泥棒が来とるのか。だったら、既に取られとるかもしれんという事じゃな。まぁ兎に角…その博士とやらが来るなら、この婆がおらんでも山は降りられそうじゃのぅ。」
祟られたくなければ道草を食わずに帰れと言いながら、老婆はその場を去る。
柚希とすれ違う瞬間に渡した物は、他の誰にも見られる事なく、携帯ブレードのホルダーに収まった。
「死体の事、あの婆さんに言っちまうのかと思ったぞ。」
「違うよ元太くん、柚希おねーさんは私がお巡りさんの事言っちゃったから、ごまかしてくれたんだよ!」
「さすがです!」
キラキラとした目で見上げられ、ごまかされたのは君達だけどね、と心の中で苦笑する。
「……。」
そんな柚希を訝しげな表情で見つめるコナンを見て、灰原はため息を1つ吐いてから声を掛けた。
update 2016.8.31