「あった?元太くん。」
ライトで水面を照らし、ダイヤを探そうと覗き込む元太に歩美が声を掛ける。
落ちないように気を付けるんだよと言ってある為、もう無茶な事はしないだろう。
キッドが沼を覗き込んだ位で見えるような状態にしておくはずも無く、ダイヤの心配はひとまず後回しにして、柚希は周りの気配を伺う。
右手をそっと太もものホルダーに添えて、ブレードと快斗から預かった物の感触を確かめた。
jewel.78
〈兄妹喧嘩 14〉
暗くて潜らないと良く分からないと元太がボヤくのと同時に、柚希は人の気配を感じて滝の上へと視線を移した。
「残念だったわね…。せっかく別の出口から出て先回りしたんだけど、どうやら先を越されたみたいよ…彼に…。」
「さ、さっきのお姉さん…。」
驚いて見上げる子供達に、女性は滝の裏を見るように言う。
「滝の裏?」
「な、何かカードがナイフで止めてあります…。」
浮き石を渡り、滝のすぐ近くまで移動した子供達が覗き込む後ろからそのカードを見ると、見慣れたマークを見つけて柚希は口元に笑みを浮かべる。
「に、仁王の石は頂いた………怪盗キッド!?」
「そんな…。」
「うそー!」
「まじかよ?!」
「ヒョッヒョッヒョッ…さすが天下の大泥棒じゃ!」
残念がる様子を見て笑いながら姿を表した老婆は、怪しげな笑みを見せながら口を開いた。
「浮き世をまやかすあの怪盗に盗られたのなら…絡繰吉右衛門さんも本望じゃろうて。」
「あの婆さん帰ってなかったのかよ…。」
「わっ!!」
「!?」
老婆の方を向きながら上に居る女性にばかり意識を向けていた柚希は、突然聞こえた声と水音に慌てて振り返る。
瞬時に光彦が落ちたのだと悟ると、歩美が光彦を呼ぶ声と共に沼に飛び込んだ。
(まずい…!深さはそんなに無いはずだけど、ダイヤを見つけられたら…)
沼底の泥が舞い上がり視界を妨げる中、光彦の元へ潜って行く。
その腕で点きっぱなしになっているライトが照らした先、泥の中で光を反射している物の存在に気付いた柚希は、心の中で舌打ちしつつ急いで光彦を引き寄せた。
ザパァッと音を立てて水面から顔を出し、咽せる光彦の脇を抱え上げ沼の縁に座らせる。
「悪ぃ…大丈夫かよ?」
ぶつかってしまった事を謝る元太に答えようとするが、水を飲んでしまったのか咽せて言葉が出ない。
「撤収だ撤収!ここに居てももう何も無さそうだしな。」
そう大きな声で言い放った男性が、コナンと灰原に“宝も無いしお前等もすぐに此処を離れた方が良い”と小さく伝えるのを聞いた快斗は、滝の上に居る女性をジッと見つめる。
(やっぱりアイツか……柚希にはアレも渡したし、名探偵も居るから大丈夫だとは思うが…)
「あ、ありました…。」
思考を遮ったのはやっと息を整えた光彦の声。
「泥に隠れていましたけど…沼の底に確かに光る石が!!」
「!!」
「ちょっと待って、私も確かに見たけど、あれはダイヤって言うよりガラスとか何かのゴミだと…」
柚希は慌てて声を上げるが、そんなの確かめてみりゃ良いんだよ!と男性は飛び込んでしまう。
「取ってはならん!!」
「取っちゃダメッ!!」
老婆と柚希の声が重なる中、男性が構わず潜って行くのを見ながらコナンは暗号に隠された重大な事実に気付く。
そして柚希が男性を止める為に再び潜ろうとした時、上からジャキッと嫌な音が響き動きを止めた。
「おっと、動かないでよ…。まさ泥で隠されていたとはねぇ…危なく見逃す所だったよ。そのカードにつられて良く探さなかったから。」
「言ったでしょう?あれはダイヤの光じゃなかった。」
ロックを外した拳銃を向けてくる女性に厳しい目つきで柚希が言うが、返ってきたのはあざ笑うような笑み。
「そんなの見てみれば分かる事さ。さあそっちへ並びな!これから宝石を手にして沼から出て来るあの男と一緒に、仲良く水浴びさせてあげようじゃないの。」
「ふん…やっと尻尾を出しやがったな………怪盗キッド!!」
コナンの言葉にお姉さんが?!と子供達が騒ぐが、キッドの名前を呼ぶ時、コナンは女性の方を見ていなかった。
(バレちゃったみたいだよ、快斗…)
update 2016.9.29