「はぁ?私がキッド?バカね、私は…」
「組んだ相棒を殺して宝を独り占めにするトレジャーハンター“毒鼠”……なんだろ?」
自分をキッドだと勘違いしていると思った女は、ニヤリと笑うコナンからハッキリと言い放たれた自分の正体に、戸惑いの表情を見せた。
jewel.79
〈兄妹喧嘩 15〉
「あんた言ってたよな?あの男が石の鏡を見せた時に…“じゃあ君達が見つけた勾玉には炎とでも書いてあったのかしら?”って。あの時俺は、見つけたのは石の神器としか言ってなかったのに何で分かったんだ?あれが剣じゃなく、勾玉だって…。」
女に向かって推理で問い詰めながら、コナンは浮き石へと渡り徐々に近付いてくる。
そのコナンに注意が向いた女が、こちらまで気にする余裕が無いのを悟った柚希は、コナンの声を聞きながら水音を立てない様に静かに移動する。
そして女の構える銃が横から見える位置へと来た所で、右手を足のホルダーへと伸ばした。
「それが分かったのは、あんたが沼に沈めた男の手帳を破り取ったからだよ。勾玉の中に“炎”と書かれたあの図面をな!!」
「あら…どうして分かったの?勾玉の図面が書いてあったなんて…。」
「あの手帳、鉛筆で書かれていたから裏写りしてうっすらと残っていたんだよ。」
初めこそ焦った様子を見せた女も、相手が子供だという事もあってすっかり余裕な表情でコナンへと銃口を向け直す。
「へぇー、少しは賢いようだけど迂闊よボウヤ…。自ら進んで銃口に近付くなんて…」
「迂闊なのはあなたでしょ?」
「っ?!」
突然響いた声に女が驚くと同時に、手元の銃が何かに弾き飛ばされた。
慌てて声のした方を振り向けば、柚希が不思議な形の銃を構えているのが見える。
「いつの間っ……。」
「余所見なんかしてる様じゃ、確かに迂闊だな。」
突然倒れ込んだ女の首もとには、コナンの放った麻酔針がしっかりと刺さっていた。
「柚希おねーさん、それ…拳銃?」
「あぁ、大丈夫だよ。これはトランプ飛ばすだけの物だから。」
柚希が違法な事をしてしまったと思ったのか心配そうな声を出す歩美に、ふわりと笑いながらそう言うが、光彦は戸惑った様子で柚希の手元を見つめる。
「それって…トランプ銃、ですよね?……怪盗キッドの…。」
「じゃあまさか、キッドはあの悪いねーちゃんじゃなくて…!?」
柚希がキッドの変装かと疑って目を丸くする子供達に柚希が苦笑し、コナンが否定しようとした時、派手な水音を立てて男性が沼から顔を出した。
「ハッハッハッハ!仁王の石は頂戴したぜ!」
「っダメ!戻して!!」
巨大なダイヤを高々と掲げた男性は、柚希の必死な声と同時に屋敷から響き始めた轟音に目を丸くする。
「え?」
慌てて柚希が男性の元へ向かうが、たどり着く前に屋敷から大量の水が飛び出してきた。
「は、早く宝石を元の場所に戻せ!!」
「な、何?!」
流れ出た水が全員を飲み込もうと襲いかかって来る中、コナンの声に未だ状況を理解仕切れない男性は宝石を手にしたまま。
「この水と一緒に、谷底に流されちまうぞっ!!」
「貸してっ!!」
コナンが叫ぶと同時に男性の手から宝石を奪い取った柚希は、大きく息を吸ってから池の底へと潜って行く。
「柚希っ?!」
それを慌てて追おうとするものの、コナンは体が軽いせいで水の勢いには勝てず、クソッと悪態つきながら遠ざかる柚希が消えた先を見つめるしかなかった。
駆けつけてくれた警官2人を連れて屋敷を目指していた博士は、散々迷って連れ回しヘトヘトになった末に、やっと屋敷の姿を見つけた。
「あ、あった……あの屋敷じゃよ!!」
しかし3人の安心した表情はほんの一瞬で打ち消される。
屋敷の方から聞こえてくる轟音に何事かと目を凝らし、大量の水が迫って来ているのに気付いた次の瞬間には、木々の隙間から自分達の真横を通り抜けようとする。
「はっ早く木に登るんじゃ!!」
慌てて近くの木に登った3人の足元を、勢いを増す水が流れて行く。
博士達はしがみつく手に力を入れ、流れが収まるのをただ祈り続けた。
update 2016.10.31