薔薇と宝石の約束




(見つけたっ!)


手にしたダイヤを元に戻す為、池の底へと潜った柚希は、屋敷からの水の流れに翻弄されながらも何とかその場所を見つけて近付く。


(息がっ……もう少しっ!)


苦しさに耐えながら手を伸ばしカチリと嵌め込むが、同時に残っていた空気を全て吐き出してしまう。

苦しさで意識が遠くなりそうなのを感じながら水面を見上げると、こちらに手を伸ばした影が近付いてくるのが見えた。





jewel.80
〈兄妹喧嘩 16〉







「あのダイヤがこの大仕掛けのスイッチになっていたんですね。」


屋敷の屋根の上から下を覗き込みながら光彦が言う。

全員が何とか屋根の上にたどり着いた後、眠らされた犯人の女は男性の持っていたロープで手足を縛り、もし起きても身動きが取れない様にして寝かせた。

ダイヤを元に戻した事で少しずつ水は引いているものの、下に降りられる様になるまでには、まだまだ時間が掛かると誰の目にも明らかだった。


「宝石を盗らせる気は最初から無かったって訳か…。」


男性が呆れた様に言うと、コナンは素を隠す様子もなくそれに答える。


「あぁ。ダイヤモンドはかつて、その何者も寄せ付けない硬さから“アマダス”…つまり“征服されざるもの”って呼ばれてたんだ。その謂われを悟れって事は、絶対に盗らせねぇって事。まぁ幕府崩壊時に倒幕派に財産を没収されるのを嫌がった、佐幕派の吉右衛門の考えそうな事さ…。」


そこまで言うとゆっくりと後ろを振り返り、意味深な笑みを浮かべる。


「だから1回盗ろうとして止めたんだよな、バアさん…。いや………天下の大泥棒さんよぉ…。」


老婆の立っていた場所には、バッと音を立てて変装を解いた怪盗キッドの姿。
それを見た子供達が歓声を上げる中、口元に笑みを浮かべながらコナンの方へ視線を移す。


「御明察。良く分かったな。」

「少しせり上がった屋敷の壁、ズレて水が吹き出た地下道。カードの文句とは裏腹に盗られていない宝石…。そして“取ってはならん”のあの一言を聞けばピンと来るさ。1度取ろうとして仕掛けに気付き、例の“古来よりの理を識得すべし”の意味が分かって慌てて戻し、そして二度と誰も触れない様にメッセージを残したのはバアさんで…イコール怪盗キッドだって事はな!」

「大正解!まぁ、盗らなかったのは、目当ての宝石じゃなかったってのもあるけどな。」


パチパチと手を叩きながらキッドが答えると、光彦はハッとして声を上げる。


「だから宝探しは止めて帰ろう、って言っていたんですね!!」

「でもよー、俺を突き飛ばして、剣を取ろうとしてたじゃんかよ!」

「あれは元太を助ける為だよ。」


不満そうに溢す元太にコナンが呆れた様に言うと、え?と驚く。


「先に入ってあの仕掛けに気付かせなきゃ、オメー今頃八つ裂きにされてあの世だぜ?」

「じゃあ歩美達が変な仕掛けに引っ掛からないように、地下で待ってたんだね!」


そう歩美が嬉しそうに言うと、灰原がニヤリと笑いながら口を開く。


「まぁ、誰より守りたい子が一緒に居るんだもの、当然ね。」

「…何の事でしょうか?お嬢さん。」

「あら、危険な状況に気付いて飛び道具まで貸しておいて、良く言うわね。」

「惚けたって無駄だ。そろそろ柚希から離れてもらおうか…。」


ほんの一瞬の間はあったが表情には出さずに灰原に返したキッドに、コナンが一層低い声で言いながら睨み付ける。
それと同時に灰原は子供達を振り返った。


「あなた達、ちょっとこっちに来て。」

「でもコナンくんとキッドさんが…。」


2人の方を気にする背中を押し、コナン達の声が聞こえにくい様少し距離を取らせると、灰原は子供達の目をしっかり見つめる。


「あなた達には、この人がもし目を覚ました時に逃げたり妙な行動をしないように見張ってて欲しいの。出来るわね?」


横たわっている犯人の女を示しながら言うと、子供達は渋々、しかし仕事を与えられた嬉しさも混じった様子でそれぞれ返事をする。

そして女の方に子供達の視線が向いたのを確認してから、灰原は再びコナン達の元へと足を踏み出した。

update 2016.11.24
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