薔薇と宝石の約束




「そろそろ柚希から離れてもらおうか…。」


睨み付ける視線にニヤリと口元を動かしたキッドは、自分の後ろに座っている柚希を隠すかの様にマントを広げる。


「どうして俺が名探偵の言う事を聞く必要がある?」

「どうしても何もねえよ。前にも言ったはずだぜ、これ以上関わるなってな。」





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〈兄妹喧嘩 17〉







「だったら俺も言ったはずだぜ。“保証は出来ない”ってな。」


挑戦的な笑みを浮かべるキッドの言葉に、コナンは眉間にシワを寄せる。


「お前の意思は関係ねぇ。」

「だったら、彼女自身の意思はどうなんだ?」

「はっ!柚希がオメーを選ぶとでも言う気かよ?」


鋭い目付きで笑い飛ばすと、コナンはさらに声を低くする。


「たとえ万が一お前に好意を抱いたとしても、それは今だけだ。犯罪者であるお前の近くにいるのが間違いであり危険だと、柚希ならちゃんと理解するさ。」


その言葉にキッドが僅かに下を向くと、ハットの影で表情は伺えない。


「危険?お前は危険な目に合わせないとでも言うのかよ?」

「当たり前だ!」

「……お前、さっき溺れそうになる柚希嬢を助ける処か、近付く事すら出来なかっただろ。」

「それはっ…仕方ねぇだろ、この体じゃ…。」

「あぁ、仕方ねぇよ。オメーが望んでそうなった訳じゃねえだろうしな。だけど…何で殺人犯が居ると分かった時点で帰らずに、屋敷に入った!?しかも子供達も一緒だ、柚希は守ろうとして無理するに決まってんだろ!」

(こいつ……本当に柚希の事を…?)


先程まで見せていた余裕さとは裏腹に真剣な眼差しで責めてくるキッドの様子とその内容に、コナンは思わず言葉を失う。


「……それは、悪かったと思ってる。…だがオメーが柚希に近付く事は別の話だ。」

「…何だと?」

「前に言った筈だ、柚希にはバラの男の子がいる。オメーの入る隙なんてねぇんだ。…まぁお前がバラの男の子だとでも言うなら別だが……もしそうなら、俺が許さねぇ。」

「…いい加減にしてっ!!」

「「!!」」


突然響いた声に、2人は驚いて柚希の方を見た。
俯いていた柚希がスッと顔を上げると、コナンをきつく睨みつけながら立ち上がる。


「危険だ、やめろ、許さない…、何度同じ事言うつもりなの?何も知らないくせに、私達の事に口を挟まないでよ!」

「なっ!俺はお前を心配して…」

「そうやって心配って言葉を使って縛り付けてるだけでしょ!?私は新一のモノじゃない!」

「誰もモノ扱いなんてしてねぇだろ!」


あまりに険悪な2人の様子に、キッドはおいおい…と遠慮がちに割って入る。


「地下に落ちてきた時から思ってたけど…お前ら、喧嘩でもしてんの?」

「オメーのせいだ!」

「新一のせいでしょ?!」


収拾のつかなそうな雰囲気に、子供達を遠ざけてからいつの間にか戻って来ていた灰原にキッドが視線を投げるも、彼女は口を出すつもりは毛頭ないらしくさらりと逸らされてしまった。


「“バラの男の子と関わるな”だなんて…しかも、彼を悪く言うからっ!」

「キッドの可能性があるからだって言った筈だ!コイツを捕まえれば、自ずとその答えも分かる。」

(マジかよ……俺の事を悪く言われたから、普段無い程に怒ってくれるとか…可愛い過ぎんだろ…)


柚希がここまで頑なになる理由に気付いたキッドは、嬉しさのあまり場違いな笑顔になりそうなのを何とか抑え込む。
さて、どう切り抜けようかと考えた途端、柚希の声が思考を遮る。


「そんなに知りたいなら教えてあげるよ!!」

「え…柚希嬢っ?!」


突然腕を掴まれ柚希の方を向かされると、首元に伸びた手がネクタイを緩める。
一体何をしようとしているのか分からず、キッドは戸惑った様に名前を呼びつつもされるがままになる他ない。


「これが答え。」


言いながらコナンの方を振り返る柚希が一歩横に動くと、コナンの位置から見えなかった柚希の行動の意味がハッキリと目に映る。

ネクタイを緩め、シャツのボタンを2つ外されたキッドの胸元には、見覚えのある淡いピンクのネックレス。


「怪盗キッドが、“バラの男の子”だよ。」

update 2016.12.17
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