jewel.82
〈兄妹喧嘩 18〉
まさかの暴露に驚く中、一番に口を動かしたのはキッドだった。
「柚希おまっ…良いのかよ?」
「どうせ何言っても分かってくれない!だったらっ…!?」
苛ついた表情で言う柚希は、キッドの手が頭にポンと乗せられた感覚に驚いて言葉を飲み込んだ。
「少し落ち着け。本当はそんな事思ってねぇだろ?」
「っ……。」
見上げたキッドに優しく微笑まれ、柚希は一度深呼吸するとコナンに向き直る。
「全てを認めて欲しいなんて言わないよ。探偵の新一からしたら、キッドはただの犯罪者だろうから。だけど、私は私なりにちゃんと考えて、その上で彼と一緒に居る事を選んだの。だから…。」
「……オメーの言いたい事は十分伝わった。」
ゆっくりと、真剣な声で紡ぐ柚希の言葉に、コナンは一つ溜め息を吐いてからそう言った。
「もうむやみにオメーらの事をとやかく言ったりはしねぇよ。だから…そんな泣きそうな顔すんな。」
「新一…。」
「但し!キッド、オメーの犯行は別問題だ。お前は必ず、現行犯で捕まえる!」
キッドを指差しながら言い切ったコナンの言葉に、キッドと柚希は目を合わせ、そしてとびきりの笑顔になる。
「何笑ってんだよ…?」
「そう言ってくれるって信じてたよ、お兄ちゃん。」
目を細めて柚希が言うと、コナンは口角を上げながらやれやれといった様子で一息吐く。
「それじゃぁ、俺はこの辺で失礼させて頂くぜ!」
「あ、おい!」
「今回は何も盗ってねぇんだから捕まえる理由もねーだろ?」
そう言ってニヤリと笑いながら屋根の縁まで歩くキッドは、灰原とすれ違う時に彼女にだけ聞こえる小さな声で囁く。
「柚希の事よろしくな、哀ちゃん。」
「!」
その声と同時に手に握らされた小さな紙を、灰原は周りに気付かれない様に手中に隠す。
ハンググライダーで飛び去るキッドに気付いた子供達が残念がるのを聞きつつ、それぞれが三者三様の思いを抱きながら遠ざかる白い姿を見つめていた。
「あー!博士遅いよー!」
「もう犯人捕まえちまったぞ!」
「博士が居ない間、色々大変だったんですからね!」
何とか歩ける程まで水が引いて屋根から全員が降りた時、博士と警官2人が疲れきった様子で現れた。
未だ眠りから覚めない女を警官に引き渡し、事情聴取はまた後日という事で帰路へ着く事になった。
先に子供達を家に送り届けた後、遠回りになるから駅までで良いと言った柚希の言葉をあっさりと却下した博士は、柚希の家の前に車を止めた。
「わざわざありがとう、博士。」
「何、大して遠い訳でもないんじゃ。遠慮する事ないぞ。それに暗い中1人で帰したりなんかしたら、ワシが怒られるからのう。」
助手席に座るコナンの方をチラリと見ながら笑う博士にもう一度お礼を言うと、灰原に小さくまたねと言ってからコナンが倒してくれた背もたれの隙間から車を降りる。
そしてコナンが再び助手席に乗り込むと、ドアが閉まる前にお互い目を合わせた。
「…今日は、嫌な態度取ってごめん。」
「いや、俺も言い過ぎた。」
それだけ言葉を交わすとドアが閉められ、博士がアクセルを踏み込む。
(心配は不要だったようじゃの…)
たった一言ずつだけだったが、この兄妹にはそれで十分なのだろうと、博士は優しい表情で前を見つめた。
「それにしても、あなたはもっと食い下がるかと思ったわ。」
コナンは後ろから聞こえた声に仕方ねえだろ、と答えながら首を回して灰原を視界に入れる。
「あいつらは、お互いに心から信用して分かり合ってる。あんなの見せられたらな…。正直、柚希がずっと想ってたと言っても10年前に1度会ったきりだ。再会したからってそんな簡単に上手く行くと思ってなかったんだが…。」
「ま、何だかんだ言っても、結局あなたは柚希が幸せならそれで良いんじゃないの?シスコン探偵さん?」
米花町へと進む車内で、からかわれて不機嫌になったコナンと悪戯な笑みを浮かべる灰原、それを宥める博士の声が広がっていた。
パタンと小さな音を立てて自室のドアを閉めた灰原は、机に備え付けられた椅子に座るとポケットから小さく折り畳まれた紙を取り出す。
そっと開いて現れた文章に目を通すと、灰原は少しだけ驚いた様な顔をしてから、口元に笑みを浮かべた。
その紙を手に持ったまま携帯を少し操作すると、再び折り畳み鍵の掛かる引き出しの奥へと仕舞い込んだ。
☆update 2017.3.1