薔薇と宝石の約束




「それで、何処でデートするかは決まってるの?」

「あぁ、遊園地だってさ。」


面倒そうに言われたその単語に、ほんの僅かだが柚希の目が丸くなる。


「……その遊園地って…トロピカルランドだったりする?」

「いや、別の所だけど…何かあんのか?」

「え?ううん、何でもない!」


何でもないと言いつつも、明らかに動揺している柚希を、快斗は不思議そうな顔で見つめる。


(良かった、違う所で。トロピカルランドだけは……)


そこまで考えて、柚希は慌てて話を戻した。





jewel.86
〈究極のピンチヒッター 2〉







晴れ渡った空の下、遊園地の入場ゲート近くの待ち合わせ場所に歩いて行くと、快斗の姿を見つけた青子が大きく手を振る。


「良かったぁ、ちゃんと来てくれて…。」

「約束したんだから来ねえ訳ねーだろ?」

「そ、そうだよね。」


いつも通りに振る舞おうとしては居るが、青子の様子は何処かぎこちない。


(きっと柚希の事気にしてんだろうな…)


「ほら、せっかく来たんだから色々乗ろうぜ。行くぞ!」

「あ、待ってよ快斗!」


入場ゲートを通りながら、快斗は事前に調べておいた園内の配置を思い出す。


(入ったら左回りぎみに進んで出来るだけ手前のアトラクションで時間を稼ぐ。そして…)










『3Dシアター?』

『うん、17時45分の上映分に入れば、そこから40分間の時間が出来る。』


園内図の1点を指差しながら言った後、柚希は真っ直ぐ快斗の目を見つめる。


『幸い予告現場はこの遊園地から遠くないし、ギリギリではあるけど時間内に戻ればアリバイは成立するよ。』

『確かにそうだけど、流石の青子も隣に居なきゃ気付くだろ?』


その言葉に柚希は悪戯な笑みを浮かべる。


『そこは、私に良い考えがありますっ!』










辺りが暗くなり始めた頃、快斗は予定通り3Dシアターの前に来ていた。


「なぁ青子、これ時間丁度良いんじゃね?」

「ホントだ、すぐ入れそう…?そっか、皆ショーを観に行ってて空いてるのね。」


早速フリーパスを見せて中へと進むと、これから宇宙船に乗船するという設定に合わせて、待機列の出来る空間は天井に星空を映し出して薄暗くなっている。
係員に誘導され、シアタールームに繋がっているであろうドアの前に、決まった人数毎に整列させられた。

青子の後ろに並んだ快斗は、右隣、席に着けば真後ろになる位置に並ぶ人物にチラリと視線を向ける。
帽子を目深に被ったその人物はただ静かにアトラクションの始まりを待っている様子。


「さぁ皆さんお待たせ致しました!本日はスペーストラベルへお出で下さいまして、誠にありがとうございます!」


元気の良い女性の声に、ザワザワとしていた客達の声は一斉に大人しくなる。


「それでは、未知なる旅への出発に向けて、注意事項を説明致します!私の図上にあるモニターをご覧下さい!」


全員から見える様に少し高い位置で話す女性の、さらに上。
完全に見上げる高さのそれに視線が集まると、映像が見やすい様に照明が更に落とされた。


(此処だ!)


周りに気付かれぬ様、素早く且つ慎重に。
快斗は暗闇の中、にやりと笑みを浮かべた。


「それでは皆様、乗船のお時間となりました!慌てず、ゆっくりとお進み下さい!」


シアタールームの扉が開き、中から明かりが溢れ出す。
近未来的なイメージの空間に並ぶ椅子に座ると、簡単なベルトを装着するように声が掛けられる。


「うわぁ、楽しみだね快斗!」

「おー。…って……は?!」


不意に腕を捕まれたと思えば、右手首に冷たい手錠を掛けられた。
そのもう片方は青子の左手へと繋がれている。
戸惑った様に声を上げると、当の青子は申し訳なさそうに眉を下げながらこちらを見つめてくる。


「ごめん…もう少しだけ、じっとしてて…。」

(分かっては居たけど、やっぱり青子の奴…)

「ほら、もうすぐ始まるよ!眼鏡掛けて!」


青子の狙いを再確認しつつ時計に目を向けると、上映時間まで1分を切っている。

それ以降2人の会話は無いまま、船員役の係員の声に続いて明かりが落とされ上映が開始される。
快斗の後ろでは、誰も居ない座席が映像に合わせて揺れていた。



update 2018.5.4
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