薔薇と宝石の約束



「思ったより早く終わったわね。ありがとう黒羽君」

「おー。じゃあ俺帰るから」

「はい、気を付けてね」


保健室を出た快斗は、携帯を取り出して時間を確認する。


(まだ早いから電話じゃ邪魔しちまうかな?……取り敢えず)


メッセージアプリに文字を打ち込みながら、静かな廊下を昇降口に向かって歩き出した。





jewel.90
〈守るべきもの 2〉







鈴木家に着いてから間もなく1時間は経とうかという頃、未だにやって来ない柚希を不審に思い電話を掛けてみる事になった。しかし、代表して掛けた蘭の耳に聞こえてくるのは無機質なアナウンスのみ。


「電源が切れてるみたい」


柚希が連絡もせずこんなに遅れる事はまず無いのだが、携帯の充電切れか何かでそれも出来ずにいるのだろうかと話しながら心配していると、突然勢い良く開かれたドアに3人は驚いて振り返る。


「園子お嬢様!」

「何?どうしたの?」

「良かった、いらっしゃったのですね。そんな訳がないとは思ったのですが……」


心底安心したという顔で大きく息を吐く使用人に、園子が改めて何があったのか聞いてみると、これは失礼しましたと話始めた。


「実は先程、園子お嬢様を誘拐した、という電話が掛かってきまして……」

「えぇっ?!」


園子と蘭が同時に驚きの声を上げ、使用人はさらに続ける。


「お嬢様はお帰りになった所ですし、私も“まさか”と答えたのですが、相手が“間違いない。後で写真を会社のメールアドレスに送るから確認してみろ”とまで言うので、電話が切れた後すぐこちらに駆けつけたのです」

「それで、そのメールは届いたの?」

「今、別の者が確認を──」


園子の問いに答える声を遮るように再び勢い良く開いた扉から、別の使用人がノートパソコンを抱えて飛び込んで来る。


「お嬢様!こちらをっ!」


3人は向けられたパソコンの画面に映っている写真を見て、揃って息を飲んだ。

「嘘っ!」

「そ、そんな……!」

(柚希っ!!)


鈴木園子を誘拐したと言ってきた犯人から送られて来たのは、手足をロープで縛られ目隠しをされた状態で、車の後部座席と思われる場所に横たわっている柚希の姿。


「お嬢様と、間違えられたのでしょうか……」


恐る恐る声を掛ける使用人だが、3人には“何故柚希が”という疑問よりも別の事で焦っていた。


「まずいよ蘭ねーちゃん!もし柚希ねーちゃんの意識があったらっ!」

「コナン君、知ってるの?!」


凄い剣幕で言ってきた言葉に、蘭も園子も驚いた表情でコナンを見つめる。
“万が一の時に知ってて欲しいって、新一兄ちゃんから聞いてたから”と前置きしてから、そんな事よりと話を進める。


「一刻も早く助け出さないと!」

「えぇそうね!犯人は、誘拐したって事以外に何か言ってたの?」


園子が聞くと、電話を取った使用人が慌てて答える。


「身代金として3億円用意しろ、と。後はまた連絡すると言って切られました」

「そう……とにかくあなた達はパパと警察に連絡して!」

「はいっ!!」


バタバタと掛けていく足音を聞きながら、蘭は自身の父親に電話を掛ける。


「僕、阿笠博士に連絡してくるよ!柚希ねーちゃん、博士の作った緊急用発信器を持ってる筈だから!」


そう言ってコナンが廊下へ飛び出すと、園子は思わず“何それ……”と溢した。










「哀君!哀君、大変じゃ!!」


大声で叫びながら地下への階段を掛け下りてくる博士に、灰原は鬱陶しそうな表情でドアから顔を覗かせる。


「……何?」

「大変なんじゃ!柚希君が、誘拐されたらしい!」

「っ?!」


これでもかという程に目を見開いて息を飲んだ灰原は、慌てすぎて大変だとしか言葉の出なくなっている博士を何とか落ち着かせる。

連絡してきたコナンからの話は、何故かは分からないが園子と間違われて誘拐され、3億円の身代金を要求されている事。また、コナンの追跡眼鏡が電池切れしそうな為、予備を持ってきて欲しいという事だった。


「博士、すぐに出掛ける準備をして!私もすぐに行くわ」

「分かった!」


博士が走って行くと、灰原は携帯の電話帳から1つの番号を探しだす。


「まさか本当に──しかも、こんなに早く掛ける事になるなんてね……」


update 2020.1.26

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