薔薇と宝石の約束




通報を受けて飛んできてくれた警察によってさまざまな機器の準備が進む部屋の中、高木が目暮に駆け寄り報告を入れる。


「何?!柚希君が発信器を持っているだと?本当かね、コナン君!」

「うん、今博士にもこっちに向かってもらってるから、柚希ねーちゃんがスイッチさえ押してくれれば、それで何処にいるか探せる筈だよ!」

「そうか。犯人に気付かれていなければ良いが……」





jewel.92
〈守るべきもの 4〉







ーーガチャッ

ノック音のした扉に、部屋の中の人間の視線が自然と集まる。少しだけ開かれた隙間から使用人が“阿笠様が到着なさいました”と告げてから、大きく扉を開き中へと促す。
そして灰原と博士に続いて入って来た快斗の姿に、一部の人間が息を飲んだ。


「え、工藤君?!」

「う、ううん。確かにソックリだけど、新一じゃない……」

「じゃあ誰なのよ?」


蘭達がそんな会話をしている横で、コナンは目を見開いて凝視している。


(アイツ……まさか!?)

「阿笠さん、早速ですがそちらで発信器の説明をお願いします。それと、彼は?」

「あぁ、彼は……」


博士が説明しようとするのをやんわりと断ると、快斗は目暮の前へ出る。


「初めまして、柚希さんとお付き合いさせてもらっている、黒羽快斗と言います」

「うそー!!」
「えぇー!!」


快斗が堂々と名乗った後、一瞬の沈黙を破ったのは甲高い2つの声。


「もしかして、バラの男の子?!!」
「まさか、一目惚れの王子様?!!」

「げ」

そう呼ばれている事を知っていたとはいえ、こんな人のいる場で大声で叫ばれると流石に辛いものがある。怪訝そうな顔をしている目暮に気にしないで欲しいと告げると、駆け寄ってきた2人に視線を向ける。


「柚希から聞いてるよ。毛利蘭ちゃんと鈴木園子ちゃんだろ?」


状況がこうでなければ、ちょっとしたマジックでも披露して、もっとにこやかに挨拶出来たのかもしれないが、今は“よろしく”なんて自己紹介をしてなどいられない。名前を分かっている事をそう快斗の方から示せば、2人は申し訳なさそうに眉を下げた。


「えっと、黒羽君……?ごめんなさい。柚希は私と間違えられてっ……」

「私達が駅まで柚希を迎えに行ってれば、こんな事にはならなかったのに……」

「いや、2人のせいじゃないだろ?謝る必要なんかねえよ。大体迎えって、ガキじゃねぇんだしさ」


2人共、突然の事態に混乱しているのかもしれない。そう思って出来るだけ落ち着かせるような声色で返すが、さらに表情が沈んでしまった。
訝しげな顔をする快斗に、目暮は言いずらそうな様子で呼び掛ける。


「あー、黒羽君。実は……柚希君の事なんだが……」

「ね、ねぇ!黒羽のにーちゃんには僕から話しておくよ!だから警部さん達は捜査を続けてて!」


突然声を上げたコナンは、そう言い放つと快斗の手を取って別室へ向かうべく引っ張って行く。

「お、おい?!」

「灰原、お前も来い」


扉付近に居た灰原にも一緒に来るように言うと、引っ張る強さは更に強くなる。
バタンと音を立てて扉が閉まると、目暮はハッとしたように阿笠に発信器の説明を求めた。










誰もいない部屋へと入ると、捕まれていた手をやっと放される。灰原も来ている事を確認すると、静かに扉を閉めた。


「何なんだよいきなり。俺を連れてきた事で哀ちゃんを責めるつもりなら……」

「んな事しねえよ」


遮るように言われ、てっきりそうだと思っていたのか2人共驚きを隠しきれない。その様子に気付いたコナンは、不機嫌そうに2人を睨み付けた。


「……何だよ?」

「いや……もっと食って掛かると思ってたからよ」

「この前言っただろ。もう一々口は出さねえ」


ーーもうむやみにオメーらの事をとやかく言ったりはしねぇよ


柚希達が兄妹喧嘩をしていたあの日、何とか素直に思いを伝えた柚希にコナンが言った言葉を思い出す。


「……そうだったな」


目を伏せてそう言った快斗の口角は僅かに上がっていたが、次いでコナンを見つめた目は鋭いものへと変わる。


「じゃあ、わざわざ俺達を別室に連れて来たのは、何の話だ?」


がらっと変わった空気に、それまで黙っていた灰原も話を聞くべく一歩踏み出した。


「さっき目暮警部が話そうとしていた事だ。だけどこれは……気軽に聞かせる話じゃねえ。お前らには、俺から話したかったんだ」


一体何なんだ。
そう思っても急かす言葉を発する事も憚られる。
そんな重い何かを背負っている様なコナンの言葉を、2人は黙って待つ。


「柚希には、とあるトラウマがある。カウンセリングのおかげもあって、今は何でもなく生活出来るが……もしその原因を思い起こさせる様な状況になったら……」


ごくりと息を飲む喉の音が、静かな部屋の中耳に直接響くようにうるさい。
蘭と園子の様子や言葉、目暮のバツの悪そうな表情が頭の中を駆け巡り、浮かぶ嫌な考えを必死にかき消そうと奥歯を噛み締める。

そんな快斗の様子を横目に見ながら、灰原はそっと口を開いた。


「何なの?その……原因って」


そう問い掛けられ、一度息を吐いてから覚悟を決めた様にコナンは2人を、いや、快斗を見据えた。


「アイツーー柚希は……


 小学生の時に誘拐された事がある」


update 2021.10.27

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