逃がしてあげない



『どうしてキッドを捕まえたいか、ね。』


目的の部屋へと足を進めながら、実紗稀は昨夜のコナンとのやり取りを思い出していた。


『君はとても難しく考えているようだけれど、一言で言えば私の好奇心、ただそれだけ。

あの日、猫が虐待されている現場を偶然見た私は、つい彼らの前に飛び出してしまったの。そして危なくなった所を、キッドが助けてくれた。さらには警察が彼らを見つけて逮捕しやすいようにした上、自分が盗んだ宝石まで返した。

怪盗だという彼の、その行動の理由が知りたかったのよ。』


だから、逮捕する意味の“捕まえたい”ではなく話をする時間が欲しかったのだ。
そう訳を話した実紗稀に、コナンはまだ疑わしそうな視線を送っていた。


『それで、その理由は分かったのか?』

『肝心な部分ははぐらかされたわ。けれど、私の目的は果たせた。もう満足よ。』


真実で真実を隠した実紗稀の言葉に、納得こそしなくても今後あれ以上問い詰める事は出来ないはずだ。


(私が彼を捕まえると言った本当の意味を知るのは、たった一人で良い……)


薄暗い廊下を進みながら、後ろを歩く快斗をちらりと見て、実紗稀は微笑んだ。





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細い廊下の突き当たりまで進むと、正面と左手にそれぞれ扉が見えた。
正面の扉のノブに手を掛けた実紗稀は、ゆっくりとした動作で手前に引いて、快斗を中へと促した。


「へぇ、向こうと雰囲気が全然違うんすね。」


ざっと見渡した室内は、レトロなデザインの照明や置物で飾られ、昔の映画に出てくる洋館の一室の様な雰囲気が広がっている。


「ここは先輩が信頼出来る人にだけ使わせる部屋なの。隣の部屋はもっと大人数が入れる広さで、どちらも完全な防音になっているわ。」

「人に聞かれたくない話をするには絶好の場所って訳ですね。」


えぇその通り、と答えながら凝ったデザインの椅子を引いて腰掛ける実紗稀に続いて、快斗も向かい側に着く。
テーブルの端にシュガーポット等の小物と共に置かれた小さな押しボタンを見つけ、呼ばれない限り誰も来ないという事かと、再び納得して正面の実紗稀と目を合わせる。


「さぁ、秘密の話をしましょうか。」


そう言った実紗稀の表情にはいつも通りの笑みが浮かんでいるが、テーブルに隠れた膝の上では、祈るように両手が強く結ばれている。


「秘密の話、ですか。正直、俺には何の検討もついてないですけど。」

「あら、心当たり位はあるはずよ?だって、私は昨日君に言ったもの。“本当の意味で捕まえに行く”ってね。」


その台詞の意味はずっと気になっているが、まさか此処でまた聞くとは思っていなかった。
快斗は僅かな焦りも見せないよう気を付けながら、何の話ですか?とはぐらかす。


「それに、実紗稀さんと会ったのは一昨日じゃないですか。」

「……そう簡単に認めてくれるとは思っていないわ。」


先程までとは打って変わって何処か寂しそうな声色に、快斗は不覚にもピクリと反応してしまった。
しかし、そっと実紗稀の方を見ると自分を見つめていた筈の顔は少し俯いている。


「だけど……お願い、これだけは嘘をつかないで欲しいの。」


再び顔を上げた実紗稀の、まるですがる様な眼に快斗は息を飲む。


「あの夜、公園で私を助けてくれた彼の、吸い込まれる程綺麗な青い瞳を、私は絶対に見間違えたりしない。…………君なんでしょう?」


もう、嘘はつけなかった。

快斗にとって、絶対に隠し通さなければいけない事実。けれど、彼女は分かっている。
確かな証拠がある訳でもない。しかし、確信を持っている。

そんな事を真っ直ぐ伝えられて、これ以上しらを切るなんて出来ない。


(もうこれは、バレたとかそういう話じゃねぇよ……だって、)


「実紗稀さん。」


名前を呼ぶと、ビクリと震える。
これまでに僅かながらも見てきた実紗稀からは想像もつかない、不安そうな表情に、快斗はそっと微笑んだ。


「見つけてくれて、嬉しいです。」


(俺はとっくにこの人に、惚れてるんだから……)


update 2017.4.10
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