「一つ、聞いておきたい事がある。」
「えぇ、どうぞ。」
「君は何故、キッドを捕まえようとするんだ?」
中森の質問に一瞬戸惑った実紗稀は、小さく息を吐いて微笑むと“そうですね…敢えて言うのなら…”と前置きする。
「…世の中に退屈していた私の、興味を引き出されたから……とでもお答えしておきます。」
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実紗稀が大学に暫く休む事を告げて帰国した翌日。
友人達と久しぶりに集まりつい話し込んでしまった結果、解散した頃にはすっかり夜の闇は深くなっていた。
迎えを頼めばすぐに来てくれるのは分かっていたが、何となくぶらりと歩きたい気分だからと、遠くはない家路を一人ゆっくりと進んでいた途中、騒がしい声が僅かに聞こえてきた。
(喧嘩…?)
少し先の公園から聞こえてくるらしい男達の声に顔をしかめると、早く通り過ぎてしまおうと足を早める。
しかし、いざ公園の前まで来た時、実紗稀の目に映ったのは予想外の景色だった。
(嘘…酷い!)
すぐにポケットから取り出した携帯を少し操作してから、実紗稀は迷う事なく公園の中へと走り出す。
「何をしてるの!?止めなさい!!」
数人の男達の前に飛び出すと、蹲っていた一匹の猫を抱き上げる。
「うるせぇ!邪魔してんじゃねぇよ!」
「何があったかは知らないけれど、これは立派な動物虐待よ!通報されたくなければすぐに立ち去りなさい!」
110番を表示した、通話ボタンを押すだけの状態にした携帯の画面を見せながら言う実紗稀に一瞬目を見開いた男達は、すぐにくつくつと笑いだした。
「姉ちゃん、それ本気で言ってんのか?」
「当たり前でしょう?!」
「だったら…させなきゃ良いだけなんだよっ!」
「っ!!」
手に持っていた筈の携帯をあっという間に蹴り飛ばされた実紗稀は、手の届かない場所でカシャンと音を立てたそれを目で追い、慌てて視線を前に戻すと目の前に迫る姿に抱えた猫をぎゅっと抱き締めた。
「さぁどうする?警察はもう呼べない。アンタが憂さ晴らしさせてくれんだろうなぁ?!」
恐怖で目を逸らしそうになるのを必死に押さえて睨み返すと、突然上から目の前を何かが通り過ぎた。
一番前に居た男は、足元に飛び込んできたそれに驚き、思わず一歩後退る。
「何だ?!…ト、トランプ?」
「せっかくの静かな月夜を、妙な騒ぎで台無しにされては困りますね。」
「?!」
頭上から聞こえた声にその場の全員が上を見上げると、街灯の上に見たことの無い、いや男達にはある意味見慣れた姿があった。
テレビ越しでは何度も見たその純白の彼は、宝石を月明かりに翳すようにして見つめている。
「か、怪盗キッド?!」
「何でこんなトコに!?」
(怪盗…キッド?何それ……?)
アメリカに行ってからメディアの情報を特に目にしていなかった実紗稀には、日本では有名な怪盗もただの妙な人物にしか見えなかった。
「なに、たまたま仕事帰りに通り掛かっただけですよ。」
「だったら、お前には関係ねぇだろ!」
「確かに関係はありません。ですが…か弱い女性と動物に手を出す様なあなた方を放っては行けませんね。」
「っ!…ただの泥棒に何が出来る?!」
何故この男達はこんなに焦っているのだろうか。
実紗稀は得体の知れない、やけに丁寧な口調のその人物をじっと見つめた。
「おやお忘れですか?言った筈ですよ、私は今“仕事帰りだ”と。…流石にそろそろ追い付く様だ。」
「!!」
キッドが視線を向けた方向から聞こえてきたパトカーのサイレンに男達が気を取られた瞬間、キッドの手元の銃から放たれたワイヤーが一気に彼らを縛り上げた。
街灯の上から降りたキッドは、喚く男達など気にせずその場で何かを書いたカードと布袋に入った物をワイヤーに括り付ける。
そして公園の入口に自身のシルクハットを落とし、実紗稀の所へとやってきた。
「さてお嬢さん。申し訳ありませんが、後少しだけ付き合って頂けますか?」
「えぇ…構わないわ。」
「それでは、その猫を離さない様に気を付けて下さい。」
「え……っ?!」
言われた言葉の意味を理解するより早く、実紗稀は浮遊感に包まれた。
update 2016.6.20