「おはよう、名探偵さん。昨日は残念だったみたいね?」
「……オメーは随分と機嫌が良さそうじゃねえか」
帝丹小への通学路。
探偵団の子供達3人と一歩後ろを歩く灰原、そこからさらに間を空けて歩く幼なじみの2人は、正反対の表情で言葉を交わした。
persona.4
「つーか、何で昨日の事知ってんだよ?」
「何でって、テレビで散々やってるじゃない。結局また宝石は帰って来たみたいだけど、一度は盗まれたのだから今回は貴方の負けね」
フッと笑いながら言う様子に、コナンは眉間のシワを深くする。
「るせー。今回は次郎吉じいさんの時と違って、自由に動き回れなかったんだから仕方ねぇだろ?大体、普段は俺が話すまでニュースでやってる内容すら知らねえのにどうしたんだよ?」
「別に対した理由なんてないわよ?昨日はたまたま、付けたままのテレビで報じてたのが耳に入って来ただけだもの」
さらりとそう言う横顔に、コナンが口を開こうとした所で、前の方から声が掛かる。
「コナンくん、まりあちゃん!今日の放課後、米花公園に遊びに行こうよ!」
「あぁ、俺は大丈夫だぜ」
「まりあは行けんのか?」
こちらに駆け寄りながら無邪気な声で誘ってくる歩美にコナンが答えると、元太がまりあに問い掛ける。
「あ……うん。私も時間あるから、大丈夫だよ」
小さめな声で、遠慮がちに答えるその様子は、先程までコナンと話していた時とは全く別人の様。
(莉亜のヤツ、いくらバレない様にって言っても、常にあそこまで違う演技してたら疲れるだろ……)
幼なじみの莉亜が新一と共に事件に巻き込まれ幼児化してしまった後、わざと時期をずらして転入してきた時から、彼女は“莉亜の親戚のまりあ”と名乗り、内気で大人しい子供を演じている。
以前、そこまでしなくても良いのではないかと本人に言った事もあったが、その時はただ一言“もう慣れたもの”と言われて話を終わりにされた。
(俺と話す時は元の莉亜の話し方だけど──そもそも、ガキの頃はもっと無邪気なヤツだったのに……)
幼い頃から新一、蘭、園子と4人で良く遊んでいたが、無邪気で明るい女の子だった莉亜が急に雰囲気を変えたのは小学校3年の時。
家の都合で何日か学校を休んだ後から、突然言葉遣いや表情がガラリと変わっていた。
それはまるで“お嬢様”を演じている様で、以前なら満面の笑みで笑っていた場面でも、くすくすと微笑む程度。
初めこそ周りから“どうしたんだ”と心配されたりもしたが、人間すぐに慣れるもので新一と蘭以外が気にする事はほぼ無くなっていた。
「まりあ、お前宿題やってきたか?」
「うん、やったよ」
「当たり前じゃないですか、まりあさんは元太くんとは違うんです!」
「元太くん、また忘れちゃったから写させてもらうつもりなんでしょ!」
「自分でやらなきゃ、何の意味も無いわよ」
「灰原までそんなコト言うのかよ……」
子供達に囲まれているまりあを見つめながら、コナンは僅かに哀しい表情を浮かべる。
莉亜の両親は世界の貴族や上流階級の者達との交流がある程の地位の持ち主だと、父の優作から聞いた事があった。
その家のせいで仮面を被らなければならないのなら、自分達の前だけでも自然体で居れば良い、そう思って話をしても、莉亜の答えは決まってノーだった。
『無理なんてしていないから大丈夫よ。気にしてくれてありがとう』
ありがとうとは言っていても、新一にはまるでこれ以上この事には関わるなと壁を作られた様に思えてならなかった。
(たとえ昔の様な接し方でなくても、せめて俺の隣で笑っててくれれば、なんて思ってたのに……)
莉亜は中学に入ってすぐ両親が海外へ行き、1人広いマンションを買い与えられ日本に残った。
それからしばらくして、同じく両親がアメリカへ行った新一は、毎日莉亜の家で夕食を一緒に食べていた。
(あの当たり前だった日々を終わらせたのは……俺自身だ)
コナンは、憎いほど青く広がった空を見上げ、思考を振り切るかの様にギュッと目を閉じてから前を歩く子供達を追い掛けた。
(さて、下見もバッチリ終わったし、後は明日さっさと仕事を終わらせるだけだぜ。明日は名探偵も来ねえだろうし、白馬の野郎も今はロンドン。こりゃ楽勝だな!)
翌日の下見を終えた快斗は、両手を頭の後ろで組み得意気な顔をしながら歩く。
そのまま米花公園の横を通りかかった時、何かが向かって来る気配と慌てたような声が聞こえた。
「あ、危なっ──!!」
「っと」
真横から飛んできたサッカーボールをパシッと音を立ててキャッチすると、慌てて駆けてくる小さな姿が目に入った。
「あの、ごめんなさい……」
「え……」
ボールを持ったまま自分を見つめて動かない快斗に、まりあは不思議そうに首を傾げた。
update 2019.5.11