どうか仮面を剥ぎ取って



本当はこの気持ちまで全て伝えるつもりだったけど……

安心した、なんてあんな顔で言われたら、もう少しだけ今のままでなんて





persona.09







「あ、えっと……快斗、君?」

「快斗で良い」

「じゃあ──快斗。もう、大丈夫だから……その……」


遠慮がちに言う莉亜の声で我に返った快斗は、小さく悪ぃ……と溢しながらそっと抱き締めた腕をほどく。


「あー……取り敢えず、今日は帰るな」

「あ、うん。……あの、ね……“頻度を高く”って、どの位?」


その質問に、快斗は斜め上を見ながら“あー……”と言いづらそうに顔をひきつらせる。


「毎日、とか言ったら引くか?」

「……え?」

「あ、いや!悪ぃ、流石に図々しいよな!」


ポカンとする莉亜の様子に慌てて訂正しようとするが、それはすぐに遮られる。


「違うの!そうじゃなくて、家の人とか……平気なの?」

「え?あぁ、母親は年中海外に出掛けてっから、いつも俺一人なんだよ」

「そう、なんだ」


快斗の言葉から、理由は分からないが父親が居ない事と、母親が基本的に家に居ない事が伝わった。
そして莉亜は、右手の小指を快斗に向けて差し出す。


「約束。都合が悪い日は連絡して。私もそうするし、それ以外は全部来ると思って用意するから。それと体調が悪い日も連絡して。様子によってメニューとか考える」

「え……まじで、良いのか?」


莉亜の薬指を見つめながらも動かずにいる快斗に、莉亜はさらに快斗の目の前にその手を近付ける。


「約束、しないの?」

「っする!ありがとな、莉亜」

「っ!!」


快斗の満面の笑みに、只でさえ火照っていた頬にさらに熱が集まるのを感じ、思わず下を向いてしまう。しかし、それではダメだと莉亜は何とか目線を上げる。

素早く連絡先の交換を済ませると、玄関へと移動した。


「それじゃあ……また、明日」

「っ……おぅ、また明日。」


計らずも赤い顔で上目遣いをされ、一瞬息が止まりそうになりながらも何とか絞り出した声でそう言うと、快斗はドアノブに手を掛ける。


「明日からは、ちゃんとこっちから来るな」

「うん、待ってる」


ドアが静かに閉まるのを見届けた後も、莉亜はすぐにその場を離れる気にはなれなかった。
携帯を胸の前で握り締め、先程までの出来事を思い返す。


(……夢、じゃないよね?)


明日からは、毎日来てくれるし、自分から連絡を取る事も出来る。
今の姿になり環境が変わってから出来るだけ意識しないようにしていた寂しさを、これからは彼が埋めてくれるのだという事実に、莉亜は胸の奥が温かくなるのを感じた。

ゆっくりとした動きでリビングへと戻ると、ソファに深く沈む。
携帯のアドレス帳を開くと、追加されたばかりの“黒羽快斗”の文字をじっと見つめた。


(お互い様とはいえ、あんなに簡単に受け入れてくれるんだ……)


元々コナンの事を知っていたとはいえ、人間が縮んで10歳近くも幼くなっただなんて、普通なら信じられるような話ではない。
それをアッサリと受け入れた上、自分の正体まで明かしてくれた快斗に、どこか救われた気分にすらなっていた。

ふぅ、と息を吐いて寄りかかった頭を横へ動かすと、目に入った背もたれに先程まであった白い上着を見た気がした。
あの時、自分のしようとしたことを再び思い出し、やっと落ち着いてきていた顔は再び真っ赤に染め上がる。


(私、どうして怪盗さん……快斗のに、匂い……とか、そんなこと────でも……すごく、落ち着く匂いだった……)


「駄目だ!!寝よう!!」


抱き締められた事まで思い出し、自分の思考に着いて行けなくなった莉亜は慌てて寝る準備へと移った。










翌日の登校途中、口元を手で隠しながら欠伸をしていると横を歩いていた灰原が「また本でも読んでて寝不足なの?」と呆れた様子で聞いてきた。


「昨日はちょっと……色々と寝付けなかったというか」

「あら、その泣いた跡はてっきり本のせいかと思ったけど、違ったのね」

「えっ?!」


昨日のうちに目立たないようにケアをしておいた筈なのにと、焦って目元に手を充てるものの、触っただけでは分からない。
あまり目立つようだとこの後合流する幼馴染に何かあったかと問い詰められるかもしれない、と想像して思わず表情が死んでしまいそうになる莉亜を見て、灰原は小さく笑った。


「大丈夫よ、工藤君が気付くほどじゃないわ」

「本当に?良かった……新一に泣いたなんて知られたら面倒なんだもの」

「心配するのも分かるけど、工藤君はあなたに過保護すぎるのよ」


その言葉に、今までの新一の態度を思い返す。
新一が莉亜の事を必要以上に気に掛けるようになったのは、小学生の時に急に振る舞いを変えてからだ。段々と周囲が慣れていっても、何度大丈夫だと言っても、新一だけはずっと心配を続けていた。
新一の両親がアメリカに行ってから毎日食事を一緒にするようになったのも、勿論自分が助かるのもあったが一番は莉亜を心配してだという事は気付いていた。


「だけど、過保護と呼べる程になったのはこの身体になってから──きっと巻き込んだ責任を感じているのよ。私が勝手に着いて行って巻き込まれただけなのにね……」

「……意外と鈍いのね」


申し訳無さそうに視線を下げる莉亜に灰原の声は上手く届かず、聞き返してみても「何でもないわ」と言うだけだった。


update 2022.3.17

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