全部のプレゼントを開けてから朝食を食べようとしていたが想像以上の量のプレゼントに参ってしまい、半分ほど壊れたツリー下の山を置いて大広間へやってきた。時間が早いというのもあるが、クリスマス休暇中の大広間にはアズミ以外数人しか人がいない。リドルの姿もなかった。
ここまで人がいないとどこに座っても変わらないだろうが、スリザリンの席に座りフレンチトーストを1つつまんだ。相変わらずホグワーツのご飯は三食とも美味しい。イギリスの料理はまずいだとかよく言われていたが、ここの料理は普通に美味しいと感じられた。
コンソメスープを少しよそって味わっていると、上からばさっ、と何かが飛ぶ音がした。見上げれば、アズミめがけて飛んでくる梟が一匹いる。真っ白な梟はスープの皿すれすれに手紙を落として飛びさっていった。
「誰だろう…?」
休暇前は度々知らない人からラブレターが来ていたのだが、流石にクリスマス休暇はないと高を括っていたためアズミはうんざりした。
嫌々宛名を見てみれば、それはよく知る人物からの手紙だった。急いでスープを飲む手を止めて手紙を開ける。
『つい先日美味しいお菓子を頂いたんじゃが、一緒に食べんか?今日の3時に儂の部屋で待っておるぞ。アルバス・ダンブルドア』
「…ついに先生にもモテるようになったみたい」
アズミは1人で肩をすくめて冗談を呟き、コンソメスープをすすった。
***
コンコンコン。
「スリザリン5年アズミ・エノモトです。手紙の要件で来ました」
「おお、お入りお入り」
ドアを開けると、トリップした日に来た時と変わらない様子のダンブルドアの部屋が広がっていた。椅子に座った彼はにこやかに笑いながら向かいの椅子に座るよう促す。アズミは失礼します、と断りをいれてから椅子に座った。
そうすると、ダンブルドアは杖を出して机の上で振った。何もなかった卓上に一瞬で色とりどりのマカロンと艶やかなイチゴが眩しいショートケーキ、香りのいい紅茶が現れる。
「好きなだけお食べなさい」
「はい、ありがとうございます」
言葉に甘えて、アズミは黄色のマカロンを口に運んだ。甘さが口いっばいに広がる。
「とっても美味しいです」
そう言えば、ダンブルドアは笑みを深くした。マカロンを食べ終えて紅茶を飲み、アズミはダンブルドアの目をみつめる。
「ところでダンブルドア教授。本日は一体なんのご要件でしょうか?」
「ふぉっふぉっふぉっ。アズミ、そんなに固い顔をするでない」
「まさか、ご多忙な教授がただのお茶会のために一生徒を呼んだなんて、そんなわけないでしょう?」
アズミの真剣な顔に、最初は笑っていたダンブルドアも真面目な顔をする。
「おぬしはトムがどんな人間なのかわかっているようじゃな」
「はい」
唐突な話にアズミは即答する。こちらの答えを聞いて、ダンブルドアは厳しい青の瞳をまた温和なものに変えた。
「ならよい。もしわかっていないまま彼と接しておるなら一言忠告をするつもりだったんじゃが、アズミには無粋な質問だったようじゃな」
「あの、ダンブルドア教授。私…」
実は彼を変えたいんです。そう続くはずの言葉は遮られる。
「よいのじゃ」
ダンブルドアの主語のない言葉に、首をひねる。
「ちゃんと考えて自分で決めたことならしっかりとやるのじゃ。強い意志を持って、な」
「意志、ですか」
「トムは間違いなくカリスマじゃよ。何も意識しないで普通に近い距離で接し続けるのならば、だんだんと『あちら側』に引っ張られてしまうじゃろう」
アズミはダンブルドアの言葉に色々と思い返す。
(…結構気をつけてるからリドルの前では一度も素は見せてないはず。だけど、結局自分のしたいことを優先した行動はできてないから…。これって言い換えればリドルのいいように動かされてるってことだよね)
「ご忠告痛み入ります。私、頑張りますね」
「応援しておるよ。何かあったらいつでも相談しに来なさい」
「はい、教授」
その後は2人でたわいもない会話をしてお茶会を楽しんだ。
***
帰り際、アズミはドアノブを握ってから振り返った。
「そうだ、教授。私、1つ質問があったんです」
「なんじゃ?」
「教授は、このネックレスをご存知ですか」
シャツから引き抜いたネックレスを見てダンブルドアは目を細めた。
「さあ、儂は知らぬ」
「そうですか、教授は思っていたよりも嘘がお下手なのですね」
部屋に一瞬の静寂が生まれる。互いに見つめあった後、ダンブルドアは眉をさげて口を開いた。
「…1つ忠告をするなら、」
「あまり人には見せんほうがよい、ですか?」
「おぬしには敵わんのぉ」
ダンブルドアは楽しそうに笑う。アズミは失礼しました、と言って今度こそ部屋を出た。