「インセンディオ!」
「アグアメンティ!」
「エバネスコ、エクスパルソ!」
「っ、プロテゴ・トタラム!」
プロテゴどころかプロテゴ・トタラムまで使えるのか、と心の中でリドルは感心した。自身の全力をこめた切り裂き呪文を上位防御呪文で防いできたアズミは、こちらから目を逸らすことなく杖を振り続けている。
無言呪文を織り交ぜながらの決闘は、始めてからもう2分ほどたったが、まだ終わる気配がない。とはいっても、リドルにはまだこうして考察する余裕がある。実力の差としては、当たり前のようにまだまだ大きな隔たりがあった。
最初の武装解除術を見た時点で、当初の目的であった『アズミが人を攻撃できる人間かどうかということ』を知ることができた。だから今は、彼女が今の時点でどれほど魔法が使えるかを確認するために決着をつけていないだけなのだ。わずかに手を抜きつつ、それでも確かにリドルはアズミを魔法で攻めたてる。
(休暇前より使える呪文が増えている…。この部屋でこっそり練習していたのか、それとも元々使えることを隠していたのか)
リドルは、無言呪文をいなしながら目の前の少女を見つめる。こちらを睨むアズミの瞳に、思考が吸い込まれるような感覚がした。
いつものヘラヘラとした笑顔も、年末にチェスをやった時に一瞬みせた弱い顔も、そこにはない。初めて見る闘争心剥き出しの顔に、背筋が震えた。
それを見逃さなかったアズミは、無言で失神呪文を飛ばしてくる。
「っ!」
咄嗟にこちらも無言呪文で盾を出し防御した。この数分の間だけでもどんどんと アズミの魔法に込められた力があがってきているように感じられるのは、きっと勘違いではないだろう。この少女は、一体どれだけの地力と才を持ち合わせているというのか。流石のリドルも、これ以降は目の前の戦闘から気を逸らすことはできなそうだ。そう思わされた。
この数年間、防衛術の授業でやる模擬戦闘であっても余裕がなくなるほど追い詰められたことはなかったというのに。
(なんて恐ろしい成長力だ、アズミ。本当に面白い、君は!)
リドルは自分の口角があがっていくのを感じた。決して油断できない、一瞬気を抜いたら負けるような決闘をしているはずなのにこんなにも楽しいなんて。
彼女といるといつもの自分らしくなくなってしまうし、わからないことばかりで気にくわなくて、今までに感じたことのないような感覚を味あわされる。
(ああ、楽しい。なんなんだ、これは)
汗が肌を伝い、体が熱くなってくる。不愉快だけど、悪くない。
けれど、もう終わりだ。リドルは杖を握る手に力をこめた。インセンディオで出した炎の隙間から、真っ直ぐに紅を放つ。
「エクスペリアームス」
「アグ、っ!」
流石に炎の隙間から放たれた紅の武装解除呪文は、彼女であっても視認し反応することはできなかった。アズミの手から杖が吹き飛び、リドルの手元までくるくると弧を描いて飛んでくる。
「僕の勝ちだね」
勝ち誇ったように笑ってそう言えば、疲れたのか舞台に座り込んでしまったアズミは額を伝う汗をローブの裾で拭って悔しそうに笑った。
その笑顔に、リドルは思わず止まる。これは推測でしかないが、それは、チェスをやった晩にもこぼした彼女の本物の笑顔だった。
普段は自分を隠すようにヘラヘラとしてばかりなものだから、杖を返そうとしたリドルの手はつい止まってしまって、アズミの前でわずかに固まってしまう。
(…またペースを乱された)
リドルは短く独白して、小さく息を吐いた。