02.Cunning adults.

コーヒーの香りが鼻をくすぐる店内。

私の前にはココアとショートケーキ、その向こうにブラックコーヒーが一つ。

正面に座る人は二宮さん。

会うのは今日で二度目なのに、苗字しか知らない。怖い。逃げたい。

苦笑いをしている私に気づいたのか、二宮さんが口を開いた。

「俺は、二宮匡貴と言う。二十歳だ。」

そう言ってコーヒーを一口飲んでこちらを見る。

私にも自己紹介しろってか。

「えと、苗字名前です。その、さっき言った事は冗談なので、気にしないでください…」

「ああ、淫行条例がどうのってやつか。」

「ひぇっ、」

夕方の喫茶店。しかもここは二宮さんチョイスの純喫茶。私達以外にも二、三人いるのに堂々と言うから、自分の軽率な発言を今までにないくらい恨んだ。

「本当にすみません。調子に乗りました。もう本当忘れてください!」

「?、何がだ?別に俺は謝罪されるような事はしてない。どちらかと言うと俺が謝るべきだろ。」

「…え、じゃあ話ってもしかして、」

「ああ、先日の謝罪だ。」

何だ、私の勘違いだった。普通にいい人だ。

予想外の反応にフリーズしてしまった。

「あの日は相当酔っていてな、申し訳無いが記憶が飛んでいる。」

「はあ、」

「大人びているからてっきり同年代だと思っていたんだ。まさか、高校生だったとはな…」

「いえ!酔っててチョロそうと思って声掛けたの自分ですから!本当にすみませんでした!」

「…そうだな、この件はお互い様という事で流そう。」

「はい!そうしましょう。」

凄い。やっぱり成人しているだけあって落ち着いている上に、話がわかる人だ!

「ところで、」

「はい?」

「高校生は二十三時以降の外出は保護者同伴じゃない限り、法で規制されているな。」

「…は、い。」

「あの日、俺に声をかけてきた時は既に日付が変わっていたが、」

「……。」

「高三のこの時期にそんな事バレたら大変だな。」


さっきまでと話の流れが一気に変わった。なんと言うか、立場が逆転している。

え、まって、何コレ?二宮さん怖っ、怖いよ。全然いい人じゃなかった。話わかるどころか、冷静にマウント取りに来てるだけだった。

冷や汗が止まらない中で何とかならないものかと、必死に頭を回転させてみるが、全く打開策が浮かばない。

「…どうすれば、黙ってて貰えますか?」

私の口から出たのはそんな情けない言葉だった。今の私にできる最大の手が交渉だけなのだ。

「…連絡先、教えろ。」

「…ふぁっ!?」

一体どんな恐ろしい条件を出されるのか不安だったのに、あっさりとしたお願いに変な声が出た。


やっぱり普通にいい人なのかも。


「そんなのでいいならいくらでも教えますよ。」

「そうか、」

気のせいかどこかほっとしたような安堵の表情に、私の中の二宮さんの位置づけは何だかんだいい人で落ち着いた。


「返事、すぐ返せよ。」



前言撤回。やっぱり怖い人だ。