「眼鏡をつくる前に寄りたい所があるんだ。」
と忍田さんが言い、連れてこられたのは精密検査室だった。
初めて見る何に使うのか分からない機械が部屋を埋めている。
何となく視線をさ迷わせていると、人が来た。
「その子ですか?精密検査を受けるというのは。」
「急で申し訳ないが、お願いします。」
背中を押され、眼鏡をかけたおじさんの前に立つ。
「えっと、お名前は?」
「苗字名前です。」
「歳は?」
「十二です。」
「…あの、苗字さんに聞いているので忍田さんが答えると意味がないんですよ。」
「ああ!申し訳ない。つい、」
私が答えようとする前に全て忍田さんが答えてしまっていたのだ。
やれやれと眼鏡を押し上げるおじさんは、きっと医師なのだろう。やっと納得がいったので、今度こそちゃんと受け答えしよう。
「では、最初から、お名前と歳、あと何か困っている事はあるかな?」
「苗字名前、十二歳です。えと、目が悪いのですが、読み書き以外で困ったことはありません。」
「やっぱり、読み書きで困ってたのか!?」
「忍田さん、」
「っは、すみません。」
「目が悪い。と言うのはどの程度なのかな?」
途中忍田さんの乱入があったが、脱線することなく話が進み、私はさっきの身体検査結果用紙を医師に渡した。
その用紙を受け取ると、医師は驚き、忍田さんに何か確認をとった。
「その、この視力で今まで怪我とかしなかったのかい?」
「?、してません。」
「本当に?躓いて転ぶとか物にぶつかるとか、人とぶつかるとか、」
「躓く前もぶつかる前も避けられるし、人もどこに居るのか解りますよ?ね。」
そう言って確認のために忍田さんの方を見ると、忍田さんも医師と同じように驚いていた。
「???」
「苗字さん、普通はねこの視力だと周りの景色がボヤけて見えるんだ。」
「はい。ボヤけて見えます。」
「ボヤけていると、細かい物や人がどこに居るのか分からないんだよ。」
「…?確かに見えないけど、何となく解りますよ?」
「え!?」
私のその発言はとても理解できない。と言うような表情で、医師は忍田さんに問いかけた。
「苗字さんは本当に人が居るのかだとか、ものがどこにあるのかをわかるのでしょうか?」
「…言われてみれば、離れている私の存在にいち早く気づいたり、近界民侵攻時もあの瓦礫の山の中で躓く事無く走り回っていました。」
「それは…、信じられないですね。」
医師がそう言うと、確かにと言うように忍田さんは考え込んで、二人共に黙ってしまって、何とも言えない空気になってしまった。
「…耳がいいのでしょうか?」
「耳、確かに。」
「…いや、耳は普通です。」
「そうですか、」
「そうか、」
二人がこれだ!と私を見るも、落胆してまた考え込む。
「…とりあえず、精密検査をしてみましょう。何か分かるはずです。」
「…そうですね。何か、」
その後も、私が精密検査を受けている間忍田さんは考え込み、医師は頭を傾げ、終始異様な空気だった。
そんな精密検査もあともう少しと言うところで、医師が勢いよく立ち上がった。
「…触覚です!」
「…触覚!?」
「私、人間ですけど。」
どうやら精密検査で私の触覚が異様な数値を出したみたいだった。
「触覚と言うのは、皮膚感覚の一つなのですが、苗字さんはその触覚が常人より遥かに優れているんです。」
「…はあ、?」
「わかりやすく言うと、空気中を移動する物体の動きを肌を通じて鮮明に感じ取っているんです。」
「……ごめんなさい、分かりません。」
「…ああ、難しかったかな?まあ、悪いものじゃありません。先程の精密検査で、トリオン量も計測したのですが、とてもトリオン量が多かった。きっとこれは、そのトリオン量についてきた副産物、サイドエフェクトですね。」
「…さいど、えふぇくと。…トリオン量?」
「なるほど!それは素晴らしい!!」
よく理解が出来ていない私を他所に、医師と忍田さんが盛り上がっているが、眼鏡を作るんじゃなかったのか?
そう思い忍田さんの方を見てみたが、心底嬉しそうに話しているその表情を見てしまうと、どうでもよく思えた。