優しくて、強い子だ。
それと同時にとても脆い。
身元引受け人になろうと思ったのも、放って置けない自分の気持ちが強かったからだ。
歳に似合わず落ち着いていて、冷静に物事を見ている。そんな性格に心がついて行って無い。
不安定で今にも崩れてしまいそうな、そんな印象を持ってしまった。
少しでも、年相応に振る舞える様になればと思ったが、思っていたよりも彼女の心の傷は深いようで、頼って貰えると思っていた自分の考えが甘かったのだと少しだけ虚しくなった。
慶が見ていたのは身体検査結果用紙だった。
つい先程まで私と稽古をしていたのに、何でそんなものを持っているのか、と見たのが悪かった。
慶のではなく、名前のものだ。
平均より遥かに軽い体重と、本当に見えているのか怪しい程の視力。
しかも、その用紙は強く握りしめたような皺がいくつもついていた。
「…名前、」
「……」
慶がこの場を去っても一向に頭を上げない彼女の名前をよぶが、返事は無い。
「視力は、元々悪いのか?」
「……」
「眼鏡かコンタクト作った方が…」
「っ、要らない!」
やっと口を開いたかと思ったら、物凄い勢いで私の意見を否定してきた。
遠慮しているのだろうか、その表情はどこか申し訳なさと悔しさが入り混じっていた。
「必要だと思うが。」
「眼鏡も、コンタクトも無くても…困ってない。」
嘘だろう。言葉に迷いがある。
あの視力で困ってないなんて、いくらなんでも無理がある。
寧ろ今まで怪我をしなかったのが奇跡みたいなものである。
「あのな、この視力ではこれからの学校での授業で困るだろう?」
「……」
「言いにくいなら無理に聞くつもりはないが、その、なんだ、」
「…あの、忍田さん、ごめんなさい。忍田さんの気持ちは嬉しいんだけど、眼鏡もコンタクトも高いでしょ。」
「……」
次に口を噤んだのは私の方だった。
もしかして、本当に迷惑なのかと思ったが、ただ遠慮しているだけだった。
「…心配なのはお金の事だけか?」
そう聞くと下唇をきつく噛んで、眉間に皺を寄せた。
そんな顔をしないで欲しい。
そんな事を考えていたら、手が名前の頭に伸びていた。
優しく何回か撫でてやると、唇を噛むのをやめて、私を見て口を開いた。
「お母さんはお金の話になると嫌な顔してたから…、その、忍田さんがせっかく私に歩み寄ってくれてるのに、離れちゃうんじゃないかなって。」
一生懸命に紡いだ言葉はあまりに健気で、愛おしくて名前を優しく抱きしめる。
まだこんなに小さいのに、
「名前が嫌って言っても俺は絶対に離れないよ。何があっても一人にしない。」
「っ、何それ、」
「それに、眼鏡は俺が名前のためにプレゼントしたいんだ。それでも嫌か?」
「…嫌、じゃない。」
そういった後に、ふにゃりと笑った。
その笑顔はあまりにあどけなくて、年相応だった。