「ザケンじゃねぇぞ!クソ女!!」
「っ、痛ったー、」
なんかすごい怒ってるこの男、私に他のセフレがいることを知って逆上中。
本人曰く、私達は付き合っていたらしい。
腹や脚だけでなく、容赦なく顔にも殴って来るような男と付き合えるわけないだろうに。
「今すぐ他の男と縁切れよ!そしたら許してやるからよ!?」
「ったいなー、そもそもあんたと付き合ってないし。」
私の態度に男はもっと怒ってしまった。
明日学校に行けるか心配だ。もしかしたら今日死ぬかもしれない。こんなボロボロな顔で死ぬのは避けたいが。
呑気なことを考えていると、ついに刃物を出した。
「は?私の事殺す気?」
「うるせえ!俺のものになんねえならいらねえんだよ!!」
勢いよく私に突進してくる。
ここは警戒区域なので、助けてくれる人なんかいるわけない。
「…死んだな。」
諦めようとしたその時。
ガシッ
「?」
「痛って、痛え!痛えよ!誰だよ!」
予想していた痛みが無いことに違和感を覚え、思わず瞑った目を恐る恐る開けた。
「おい、あんた。警察呼んでくれ。」
そこに居たのは真っ黒なロングコートにもじゃもじゃ頭の男だった。
その人はキレていた男の腕を押さえつけ、刃物を遠くにやっていた。
よく見るとボーダー隊員だ。しかも、肩に付いているエンブレムはA級一位のものだ。
この前調べたので知っている。
急いで警察を呼んで、事情を話し、助けてくれた人が証言してくれたのもあり、私は後日事情聴取ということになった。
「あの、助けて頂いてありがとうございます。」
「いや、防衛任務中だったからな。でもこの辺は警戒区域だから女が一人で来ると危ないぞ?」
意外とふわふわしている人で、私と捕まった男が知り合いだとは思っていないらしい。
「んー、それにしてもあの男、女相手にここまでボコボコにするのはひでえな。」
相当ひどい顔になっているのか、痛そうと言いながらマジマジと見られる。
「えっと、慣れてるんで大丈夫ですよ?」
「は?そんなに怪我してんのに慣れてるって、虐待でもされてたのか?」
「いや、虐待はされてないですけど、」
「まあいい、とりあえず、そのケガの手当てをしよう。」
「えっ!?いや、大丈夫です…って、聞いてないし。」
遠慮しようとしたが、私の言葉を聞く前にその人はボーダーと連絡をとっていた。
「よし、んじゃ本部で手当てするぞ。」
「ありがとうございます。っ、痛った、」
お礼を言って歩きだそうとしたその時、蹴られていた足が傷んで歩けなかった。
立っている分にはなんともなかったのに…。
「やっぱ痛いんじゃん。ほれ。」
そう言ってその人は私の前にしゃがんだ。
「何ですか?」
「歩けないだろ?おんぶして連れてく。そっちのが早いし。」
「えっ、重いですよ?」
「大丈夫だ。重さは感じない作りになってるから。」
言っている意味がよくわからなかったが、歩けないので乗せてもらうことにした。
本当に重さを感じないのか、はたまたスーパーマンなのか。
その人は私を背負ったままぴょんぴょん飛んで、あっという間にボーダー本部に到着した。
「とりあえず隊室で手当すっか。誰か暇そうな奴…」
ブツブツと一人言を言いながらキョロキョロと誰かを探していた。
するとそこをたまたま通りかかったであろう男の子に声をかけた。
「よう、荒船。今暇か?」
「こんばんは、太刀川さん。って、後ろにいるの苗字さんですか?」
「お前苗字って言うのか?」
太刀川さんの背中から顔をひょいと出して挨拶をする。
「こんばんは!荒船くん。」
「っ!?その顔どうしたんだ!?」
えへへーと笑って誤魔化そうとする私。
オロオロしている荒船くんを連れて太刀川さんは隊室の前で止まった。
「詳しいことは本人に聞いてくれ、俺は防衛任務に戻るから。あとは頼んだぞ!荒船。」
そう言い残し、私を背中から降ろして颯爽と去っていった。
「えと、とりあえず太刀川隊の隊室で怪我の手当をすればいいのか?」
「うん、そうみたい。ところで、私足を痛めてて歩けないから、肩を貸してくれるかな?」
「そうなのか、いいぞ。気をつけてな。」
開いた扉をゆっくりとした足取りで中へと入っていく。
「おー、来た来た。って、怪我人って名前ちゃんだったのー?」
中にいたのはクラスメイトの国近柚宇だった。知り合いだ。
「そいえば、柚宇もボーダーだったね。」
「そだよー。でも、防衛任務中だから私は手当て出来ないの〜、ごめんね。」
「大丈夫。こっちこそ、大事な仕事中にお邪魔してごめんね〜。」
「二人は知り合いだったんだな。」
関心しながらも、私をソファまで連れて行ってくれる。優しい。
そして、柚宇に救急箱の在処を聞いて私の怪我を手当てしてくれる。優しい。
「…どうすればこんなに殴られるんだ?」
荒船くんは手当をしながら聞いてきた。
「あは、何でかなー?」
曖昧に返事をすると、呆れたような表情で話を流してくれた。本当に優しい。
その後、手当が一通り終わり、荒船くんが松葉杖を借りてきてくれる事になった。
荒船くんを見送ったあと、柚宇と荒船くんについて語って、荒船くんが優しい事を再確認した。
私を助けてくれたもじゃもじゃ頭の人にもお礼を言わなければ、と思った時、自分のやっている事を初めて汚いと思った。