「…すまん。」
そう言って私に松葉杖を渡してくれた。
「名前!ついに刺されたのか!?」
「んだよ、ピンピンしてるじゃねえか。」
「いやいや、女の子なのに顔に怪我してるよ〜、大丈夫?」
「…本当に苗字さんだ。」
「歩けるのか?その足で、」
「…なるほど、みんなボーダーだったんだね。知らなかった。」
荒船くんが謝ったのは、大勢の人が来てしまったからだろう。現に柚宇が私任務中なんだけど…。と苦笑いしている。
「とりあえず、この人数がここに居ると柚宇に迷惑だから、出よう。ありがとね、柚宇。仕事頑張れ!」
「こっちこそありがとね〜!また明日〜!」
ヒラヒラと手をこちらに振ってくれた。
松葉杖をつきながら部屋を出た。
「さて、帰ろう。」
「いやいやいや、」
総ツッコミを食らった。
荒船くんが言うには、松葉杖を持って歩いていたら、それを見かけた当真が話しかけてきて、当真に経緯を話したら、そこにかげまさとゾエが合流して、そしてついには村上くんと穂刈までもが合流したらしい。
つまり、村上くんと穂刈は完全に野次馬。当真とかげまさとゾエも話半分しか分かっていないのである。
「刺されそうになったとこを太刀川さんに助けてもらったって聞いたけど、合ってるか?」
「うん。だいたい正解。」
太刀川さんが誰かは知らないが、多分もじゃもじゃ頭の人だろう。
「一度会って話した人が、私と付き合ってると勘違いして逆上した。」
「簡潔だな!おい。」
結局大分省いた説明で納得してくれた。
当真とかげまさは嘘だと分かったみたいだけど、特に深く追求すること無くその場を収めてくれた。
「でも、そんなに怪我してると不便じゃないのか?」
「大変そうだな、歩くのも。帰れるか?家まで。」
今日ほぼ初対面の村上くんと穂刈くんが心配してくれる。
いい男だ。
「大丈夫だよ〜。心配してくれてありがと、ところで連絡先を…」
「おい、鋼はダメだぞ。」
「は、」
「鋼に変な事教えようとすんなよ。」
「え、」
ちょっときっかけ作りに声をかけたら、当真とかげまさが止めてきた。しかも両肩に片手を乗せて。
「…セコムかよ。まいっか、ボーダー隊員は忙しいもんね。」
当真もかげまさもいつになく真剣に止めてきたので、村上くんは諦めることにした。
絶対相性いいと思ったのに。
私のいつも通りの様子を見て、当真は安心したように私の髪の毛を撫でた。
「そんなに深刻そうじゃないから、俺らはもう戻るわ。」
「…うん。また明日、ね。」
「おう。」
そう言って翻り、模擬戦の続きだー!と元気に去っていった。
出入口前で一人取り残され、途端に怖くなる。
「…当真の、バーカ、最後まで送れよ、」
「苗字…?」
本音をちっちゃく言ったあと、誰もいないと思っていたのに誰かに名前を呼ばれた。
「っえ、…二宮さん?」
そこに居たのは、先日おっぱい好きということで、私の中で株が上がった二宮さんだった。
「お前は、またやられたのか。」
呆れたように顔を歪め、私の方に近づいてきた。
「そいえば、二宮さんもボーダーでしたね。」
「あ?今更なんだ。」
「いえ、三門市を守るヒーローなのにおっぱい好きだかりゃっ、」
「余計な事言う口はいらねえな。」
ちょっとからかおうと思って言ったのに、容赦なく頬を鷲掴みにされた。
「ひみにいらいれふ」
「っは、何言ってるかわからん。」
「っ、地味に痛いですって言ったんです、私怪我人ですよ?優しくしてください!」
二宮さんの手を外して皮肉っぽく言ってみる。
「そうだな。送ってやる。」
「…へ?」
「その不格好じゃ時間かかるだろ。」
少しドヤ顔していいるのがムカつくが、その気遣いは今とても嬉しい。
「…どうせなら夜ご飯も連れてってください!」
「調子にのるな。」
付け加えたわがままが照れ隠しだと、二宮さんは気づいているだろうか。
相変わらず考えが読めない表情で私の手を引いてくれた。
さっきまで感じていた一人になった恐怖が嘘のように、今はただただ穏やかな気持ちでいっぱいだった。