目が覚めると知らない部屋に居た。
いや、よく見たら知ってる。
「…起きたか。」
「…にのみやさん?」
だんだん眠る前の事を思い出す。
スカートのポケットに入れていた携帯で時間を確認する。
「…二時。」
「親に連絡してないが、心配されないのか?」
ずっと起きていたのだろうか、二宮さんは開いていた本を閉じて机に置いた。
「はい、私に興味無いので。」
「そうか。」
二宮さんは水を持ってきてくれた。
気が利く。
「……」
「…私の家、シングルマザーだったんですよ。」
私が話すのを待っているような、そんな気がして私は口を開いた。
「お母さんは私が学校行ってる間に働きに出て、私が帰ってくると家でご飯作って待っててくれるんです。」
「…そうか。」
「学校も友達多かったし、家に居る時はお母さんが必ず居たので、一人で過ごした事あんまりないんですよ。」
凄いでしょ?なんて得意げに笑って見せるけど、二宮さんは私につられて笑うことも無く、ただ真剣な顔で私の話に相槌を打ってくれる。
「でも、さすがに無理してたのか、六年前に過労で倒れちゃって。いろんなところからお金借りて何とか生活してたんです。」
「…そうか、」
「それから二年経って、お母さんが再婚したんです。パート先の社員さんで、お母さんの事大好きないい人です。…私の事はあんまりよく思ってなかったんですけど。」
「……、」
「でも、お母さんが幸せそうだったから私も嬉しくて、その頃が一番充実してました。」
「今は、違うのか。」
「ふふっ、今もそれなりに楽しいですよ?でも、第一次侵攻の時、三門市に出かけてたお母さんは近界民に襲われちゃって、今も眠ったままなんですよ。」
「…お前、」
「三門市立病院に入院することになって、それで去年三門市に引っ越してきたんです。お見舞いいくのが楽になりました!」
「…もういい。」
「私意外とマザコンだったみたいで、お母さんと話せないのは悲しいし、お母さんの事どんどん薄れてっちゃうし、父とは気まずいし、誰もいない家は暗いしで一人は寂しくって、」
「…それでセフレなんて作ってんのか?」
その声は少しだけ怒っていた気がした。
普段から淡々とした口調だから、よく分からないけど。
私のことを哀れんでいるのはよく分かった。
「こう見えても私、見る目はある方で、」
「散々殴られてるくせに何言ってんだ。」
「性格は見極められないけど、相性は何となく分かるんですよ!ね。」
「…、馬鹿だな。」
重かっただろうか、二宮さんは口を噤んでしまった。
何とか明るい雰囲気にしたくて、面白い話を探してみるけど、こういう時に限って見つからない。
どうすればいいだろうか、本気で悩んでいると二宮さんがやっと口を開いた。
「一人になりたくないなら、俺と居ればいいだろう。」
「…えと、でも、二宮さんボーダー隊員だから、その、」
思いがけない提案に、歯切れが悪い返事しか出来ない。
「家に居たくないなら、俺の家で待ってたらいい。」
「…あ、の、んと、でも、」
咄嗟に思い浮かぶ言葉は二宮さんの提案を拒否するには不十分で、それでも断る口実を必死に探してしまう。
「俺じゃお前の寂しさを埋めることは出来ないか?」
「…ちが、」
「暴力振るうような男といるくらいなら、俺といてくれないか?」
「…どう、して?」
真剣な表情のまま、二宮さんの手が私の頬を撫でる。
「俺が名前と居たいからだ。」
初めて名前を呼ばれたからか、心臓がうるさい。
触れた所から熱が広がって、顔中が暑い。
息をする度に胸が苦しくなって、初めての感覚に戸惑ってしまう。
これはなんだ?
暖かくて、恥ずかしくて、でも嫌じゃない。
この感情の名前を、私はまだ知らない。