さっきよりも増え続ける怪物。
破壊される街。
私の知っている三門市がどんどん崩れていく。
逃げ場も分からずパニックになり、走り出す人混みの中を一人逆走する。
なおも被害が出続ける方角へ私は走った。
幸いにも私は生まれつき空間把握能力が高い。というか、物の大体の位置がわかる。ので、建物の倒壊や怪物の襲撃を何とか避けて自分の家の方へ進めた。
あと少しで住み慣れた我が家が見えてくるはず。
いや、この辺は怪物の通り道だったらしく、見慣れた住宅街など欠片も無く、そこはただの瓦礫の山だった。
逃げ惑う人達の中、何故自分がここまで来たのか。
私にはまだ分からなかった。
いくら物の大体の位置がわかるからって、この瓦礫だらけの道を、しかも怪物がいるかもしれない場所まで行こうなんて、さすがに誰も思わないだろう。
結局皆自分が一番可愛い。
自分の身を守るために行動するのは当然だ。
私もそうであるはずなのに、図書館から出て怪物がいる方を見て咄嗟に体が動いてしまった。
もうとっくに逃げてるはずだ。
逃げ遅れているとしたら、もうきっと助からない。
そんな事を頭で考えながらも足は休むことなく走り続けている。
今のこの状況で、自分の運動神経が良くて良かったなんて思っているんだから、私は相当の馬鹿だ。
何となく足を止めた場所には、私の知っている建物はなくて、あるのはここに着くまでに見てきた瓦礫の山だった。
上がった呼吸を整えようと深呼吸をするが、嫌な思考に陥って鼓動が早くなる。
何を思い出してもあの女はダメな人だった。
いい思い出なんてなかった。
悪い思い出も少ししか浮かばない。
思い出自体が少ない。
同じ血が流れているだけの他人だった。
「っ、でも、」
瓦礫の下に人がいる。
それがあの女かもしれない。
瓦礫をどかそうと手をかけるが、ゴツゴツしたそれは素手に優しくない。
手のひらから血が滲んでじんじんと痛む。
それでも歯を食いしばって瓦礫をどかした。
何とか瓦礫をどかしていくと、人の肌が見えてきた。
「っ、おかあさ、」
声をかけようとしたら視界が回った。
瓦礫から出てきたのは女ではなく、男だった。
その男は今朝方見た、あの女が連れ込んだ男だった。
「っはは、嬢ちゃん、健気だね〜、」
器官に入った塵を吐き出しながら男は口を開いた。
「…何?おじさん、私お母さんを助けに来たから忙しいの。退いてくれない?」
依然私に跨っている男に話しかけるが、男は私の言葉を無視しながら私の洋服に手をかけた。
「っちょ、はぁ!?おじさん、何考えてんの!?」
「っせえなぁ、こちとら、溜まってるもん、出すために来たのに、あの女、出す前に、くたばっ、ちまったんだよっ」
まだ話すのが苦しいのか、途切れ途切れの声を聞いて何となく自分の置かれている状況を理解した。
それと同時にあの女の状況も。
「っ、っざけんな!はっな、っせぇ!」
頑張って抜け出そうと両手足を動かしてみるがビクともしない。
もちろん周りに人がいる訳もなく、誰も助けてくれない。
段々と言い表せない恐怖が込み上げて来て、視界が滲んだ。
「本当に健気だね〜、おじさん、そうゆうの大好き、」
そう言えば昔、一度だけ母親と本気の喧嘩をした事があった。
発端は忘れたけど、妙に母親が突っかかってきて、それで、
『どんなに強がってみせても、女の子が男にかなう訳ないでしょ。』
突然そんな事言うもんだから、今更母親面すんなって言い返したんだった。
普段私をほったらかしにしてる癖に!ってムキになっていたけれど、あれは私を心配しての言葉だったのかもしれない。
自分の無力さに涙が溢れた。