04.A little by my side.

あの日から、最寄り駅と家までの区間を迅くんが送ってくれる。という謎の行事が恒例化していた。

「…今日もお疲れ。」

「迅くんは、暇なの?」

毎日バイトに明け暮れる私の、バラバラな帰宅時間に合わせていつも居る。

「…ストーカーとかしてないよね?」

「ははっ、してないしてない、俺はね。」

「は?誰か代わりの人にストーカーさせてるの!?」

「あー、違う違う。冗談だから、」

面倒臭そうにそう言うので、一人盛り上がってしまってちょっと恥ずかしい。

「そういえば、迅くんは今もボーダー隊員やってるの?それとも大学生?」

素朴な疑問を投げかけてみると、キョトンとした顔でこちらを見る。

「…大学は行ってないよ、ボーダー永久就職かな。なんつって、」

「そうなんだね、ボーダーか、凄いなあ。」

街を守ってくれてるのか、なんて漠然と想像しながらも詳しい業務などは知らないので、凄いしか言えない。

「苗字さんは?毎日バイトばっかで、大学は大丈夫なの?」

少しからかうみたいに迅くんが言うので、てっきり知ってるもんだと思っていた私は、豆鉄砲食らった鳩みたいにキョトンとしてしまった。

「大学はやめたの。今フリーターやってるんだ。」

お互いにキョトンとして、その表情がおかしくて二人して吹き出した。

「今、俺たち絶対同じ顔してたよ、ははっ、」

「うん、絶対そう、ふふっ、」

どうして私が大学をやめたのかとかは聞きもせずに、楽しい雰囲気のまま私の家に着いてしまった。

「…んじゃ、今日はこれで、」

そう言って帰ろうとする迅くんの腕を咄嗟に掴んでしまった。

「…えっと、この手は?」

「…何で掴んだんだろう?」

「いやいやいや、っはは、何?苗字さん、名残惜しくなっちゃった?」

困ったような、でもどこか嬉しそうに笑ってそう言うので、私は本音が口から零れてしまった。

「…うん、今日はまだ一緒に居たい。」

「え…、」

「……、なんつって、」

最初は会話も無くて、最寄り駅と家のそこそこな距離を迅くんと一緒に歩くのがしんどくて、早く家に着けばいいのにと思っていた。
でも、最近会話が増えてきて毎回家に着くと直ぐに帰ってしまう迅くんの背中を見送るのが寂しかった。

今日は特に。

さっきまで笑いあってたのが嘘みたいに、二人の間に流れる沈黙が怖くて、掴んでいた手の力はどんどん弱くなる。
もうちょっと動かせば簡単に離れてしまうくらいだ。

「俺、ご飯まだなんだよね。」

重たい沈黙を破ったのは、意外にも迅くんで、脈絡の無いその言葉に面食らってしまう。

「…私もまだ。」

「んじゃ、一緒に食べよう。」

初めて私に向けられた屈託の無い笑顔に、こちらまで顔が綻んだ。

どうぞ、と迅くんを家に入れてリビングに通そうとした時、私は焦った。

「…おお、苗字さんって意外と整理整頓が苦手なタイプ?」

「いや、今朝急いでて。」

家具が少ない割に、ものが多いせいでリビングは散らかっていた。

「ちょっと整理するから、こっちで待ってて。」

そう言って隣の寝室に案内した。

「なんの迷いもなく寝室に男入れるのどうかと思う。」

そんな事を言われても、寝室は綺麗なのだから仕方がない。

「本当にごめん、こっちの方が綺麗だから、」

「…本当だ。むしろ何でこっちは綺麗なまま保ててるのか気になる。」

おっしゃる通り。実家にいた頃から寝室だけは綺麗だった。

とりあえず、迅くんが寝室にいる間に散らかっている洗濯物を洗濯機に投げ入れ、散乱した物を所定の位置に戻していく。

そうすればあっという間に整頓された。

「迅くんー、終わったからこっち来ていいよ。」

隣の寝室に向かって呼びかけると、ひょこっと迅くんが顔を出した。

なんだか見慣れない光景に心臓が変な風に動いた。

「うわ、綺麗になるもんだな。」

感心している迅くんに少し得意げになりながら、何か食べたいものがあるか聞いた。

その後は早かった。
迅くんがなんでもいいと言うので、少し迷ったが冷蔵庫の中を見て適当にトンカツと味噌汁を作って振舞って、食休めにテレビを見て笑って、そんな事をしていたらいつの間にか日付が変わりそうになっていた。

「もうこんな時間!迅くん明日の予定とか大丈夫?」

「あー、本当だ。俺は明日は休みだから、苗字さんは?」

「…明日はバイトが二時からなんだ。」

そっか。迅くんが言った後、何となく二人とも黙ってしまった。

今日の私はどうしてだか迅くんを引き止めたいみたいで、一生誰かに言うことは無いだろうと思っていた言葉が口から出た。

「泊まっ、てく?」

「…いいの、?」

「うん、」

そう言って少しだけ近づけば、迅くんの手が私の頬を撫でて親指で唇をなぞった。

それを合図に私達は唇を重ねた。