06.Name of this relationship.

窓から入る朝日とキッチンから漂うお味噌汁の香り。

一瞬夢かと思ったが、これが現実だと痛いほどに解らせてくる腰の痛み。

起き上がると、着た覚えのない寝巻きを着てベッドに居た。

「…まさか、」

自分の家なのに、コソコソと音を立てないように寝室の扉を開けてリビングの奥にあるキッチンをみる。

すると、使おうと思って買ったシンプルなデザインのエプロンをした迅くんがキッチンに立っていた。

ちなみにエプロンは買ってから一度も使っていない。

「起きてきたな、おはよう。」

こちらに気付いた迅くんは笑顔で手を振る。

「…おはよ。」

「ごめん、台所勝手に借りてる。」

「…それはいいけど、何作ってんの?」

律儀に謝ってくる迅くんに料理とか出来るんだな…と失礼な事を考えながら寄っていく。

「いや、簡単に卵焼きと冷奴。あと鮭焼いてる。」

「…美味しそう、」

「そりゃ良かった。勝手に冷蔵庫開けて作っちゃったけど、大丈夫だった?」

「…平気。」

そんな事を心配する前に、昨日第二ラウンドまで付き合った私の体を心配してよ。

脳内でそう言いながらジトっと見ていると、気付いたのか苦笑いをして頬を掻いた。

「なんか嫌いなものでもあった?」

「…無い。」

迅くんはとことん私の体を労るつもりが無いらしい。

一人根に持ってるのが馬鹿らしくなって、早く食べよ!と言って食器の用意をする。

ふと時計を見れば十二時半を過ぎていた。

「うわ、寝すぎた。」

「あ、やっぱり?起こそうか悩んだけど、随分幸せそうに寝てるから起こせなかった。」

ははっ、と笑って言う迅くんに何か言ってやろうと思ったが、完璧なご飯を用意してくれたので何も言わないことにした。

「…バイト、休もうかな。」

「え、そんなに時間やばい?」

ボソッと言えば迅くんは焦ったように時計を見る。

「今日は、働きたくない気分…」

私がそう言うと、迅くんの表情が強ばった。

「…?」

「それなら、今日は家でゆっくりしてなよ。」

明らかにおかしい態度の迅くんに理由を聞こうにも、口にものが入っていて話せない。

もしかして、怠惰な態度に呆れちゃったかな?

私の表情の変化に気づいたのか、迅くんが取り繕ったように笑った。

「苗字さん頑張りすぎだから、たまにはゆっくり休みなよ。俺も一緒に居てあげる。」

嘘か本当かよく分からないが、その言葉はとても嬉しかった。

私が笑うと迅くんも笑って頭を撫でてくれる。

人に頭を撫でられたのなんて、いつぶりか。その手の温度は普通なはずなのに、何故かとても温かくて涙が出そうになった。

「…死なないでよ。」

「…え?」

溢れそうな涙を堪えていると、とても小さな声で何かを言った。

「何でもない。美味しい?」

「…うん、美味しい。」

なんだか無理やり流された感じがしてモヤっとしたが、久しぶりにまともなご飯を食べているせいか、直ぐに気にならなくなった。

その後、バイト先に休みの連絡を入れて、買い物にでも行こうかと考えていると、迅くんも行きたいと言い出した。

「…え、別にいいけど、迅くん今日休みでしょ?予定とか無いの?」

「ん?今日の予定は苗字さんと過ごす事くらいかな。」

「…あ、そう。」

優しい笑顔にちょっとドキッとした。

「とりあえず、シャンプーと洗剤の替えが無くなりそうだから買いに行きます!」

「うん、米も残り少なかったけど買う?荷物なら俺が持つから。」

「お、本当?それは助かる。」

意外と気が利くなと思ったが、あんな完璧なご飯を作れるのだから、迅くんは家庭的なのだろう。

見た目で判断するのは良くない。と自分に言い聞かせる。








買い物に行った帰りに、ふとアイスが食べたくなってコンビニに寄った。

「ごめんね、お米持ってもらってるのに付き合わせて。」

「これくらいならへーきだよ。」

「ありがと〜!」

お米どころか、今日の買ったものを全部持ってくれている。

さすがに申し訳ないので迅くんにもアイスを買ってあげる。

「迅、何してるんだ?」

「げ、嵐山。」

「…嵐山くんだ。」

アイスをコンビニの前で食べていると、たまたま犬の散歩をしていた嵐山くんに遭遇した。

私の事知ってるかな?

一応母校が同じだったのだが、私が一方的に知っていても向こうは知らない可能性は大だ。

「…!苗字さんか、高校以来だな!」

知ってた!

「嵐山くん!ちゃんと話すの初めてだよね?」

「ああ、迅からよく話を聞いていて、」

「珍しいな、嵐山がこっちの方散歩してんの。散歩ルート変えたの?」

「???」

何故だか迅くんは嵐山くんの言葉を遮った。

聞こえなかったじゃないか。

「ああ、いや、今日はたまたまだ。」

「そうか、んじゃ!またな。」

「え、迅くん?」

まだアイス食べ終わってないんだけど。

無理やり会話を終わらせて迅くんは私の腕を引いて歩き出した。

「ふむ、デート中だったか。邪魔してすまんな!」

何を勘違いしたのか、嵐山くんがそう言ってきた。

「違うよ!俺達はただの友達!じゃなー!」

私が訂正する前に迅くんが訂正した。

ただの友達か、えっちなことしてるくせに。ただのじゃ無いじゃん。

何故か気持ちがモヤついて、迅くんに食ってかかろうとして気付いた。

私達は何なのだろう。

友達と言うにはそれ以上の事をしているし、恋人と言うには圧倒的に何かが足りない。

だから、あっているのかもしれない。

迅くんの言うただの友達で。

ただの、セックスをする友達。