13.My goddess.

「名前!」

その声に全身が反応した。

振り返らなくても分かる。何故ならその人は私を救ってくれた、文字通りの命の恩人。

我が女神、小南桐絵。

大天使、桐ちゃん。

「…はわっ、え、あ、き、りちゃん!!!」

両目から溢れ出る涙を見て、桐ちゃんは結構引いてる。

「…あ、えと、元気?名前、」

「元気だよおぉ〜!むしろ、桐ちゃんに会えて最高に元気が漲ってるよお!」

号泣しながらそう言うと、安心したような、でも焦っているような不思議な表情をした。

「…小南?珍しいな、本部に何か用か?」

「…ここはヘヴンか。」

通りかかった忍田さんも合流した。

桐ちゃんが命の恩人、女神とするならば、忍田さんは私を拾って生き方を教えてくれた言わば大司教様の様なもの。

二人が居るだけで無機質なボーダー本部の廊下も天国へと変わる。間違いない。

「…ちょっと名前の顔見に寄ったのよ。」

「そうか。」

「そうなの!?嬉しい!」

一人異様な程に盛り上がっている私を不審に思ったのか、怪訝な顔で桐ちゃんが質問を投げかけた。

「…前々から思ってたけど、名前はあたしの事なんだと思ってるのよ。」

「え…、女神。」

「はあ?」

迷いなくそう言うと、信じられない!という表情で私を見た。

「あたしが女神ならあんたは迷える子羊のつもり?」

「うまい!そんな感じ〜!」

「あっそう、悪いけど、あたし人間だから子羊とは話せないわよ。」

「え…」

「あ、おいっ、小南、」

何がいけなかったのか、桐ちゃんは怒って去っていってしまった。

「っふう、うえぇ、」

さっきまで桐ちゃんに会えて嬉しい涙が流れていたのに、今はとても悲しい。
悲しくて涙が溢れる。

忍田さんは優しく私の頭を撫でて、部屋まで送ってくれた。

部屋で桐ちゃんが怒った理由を考えてみるが、全く分からなかった。

「…やっぱり本人に聞かなきゃ。」

少し怖いが、部屋を出て桐ちゃんを探しに行く。もしかしたらもう玉狛支部に帰っちゃったかも、そんな事を考え出したらまた涙が溢れそうになる。

廊下の曲がり角で立ち止まり涙を拭っていると、少し遠くで話し声が聞こえた。

忍田さんと、桐ちゃん?

静かに聞き耳を立てる。

「…あのな、何もあんな言い方しなくてもいいんじゃないか?名前泣いてたぞ。」

「そんな事言われても、ていうか名前はいつも泣いてるじゃない。」

「は?そんな頻繁には泣かないだろう。」

「?あたしに会う度泣いてるわよ。だから、嫌われてるんじゃないかって思ってたけど、人として見られてなかったみたいだし。」

まさか、私が毎回桐ちゃんに会えて嬉し泣きしていたのを誤解していたなんて、弁解しようにも今出ていくのは盗み聞きがバレてしまう!

「もしかして、拗ねてあんな突き放す様な事言ったのか?」

「…っ、そうよ、悪い?あたしは名前の事、い、妹みたいに思ってたのよ!すごく懐いてくれてたから、妹みたいに可愛がってたのに…、中学上がってからは会う度泣かれるから、」

「…そうか、でもあれは小南に会えた事による嬉し泣きだぞ?」

「え?」

ナイスフォロー、忍田さん!
ガッツポーズをしてそろそろ出ていこうとしたが、話は思いもよらない方向へいった。

「だとしたら尚更ダメじゃない。」

「…なんでだ?好かれてるからいいじゃないか。」

「もしそうなら、あれは異常よ。崇拝に近いじゃない。」

「…、別に崇拝だとしても悪くは無いだろ、嫌われてる訳でもないし。」

「だめよ。名前があたしのために動いて何かあっても、あたしは責任取れないもの。」

「…それは、」

「それに、自分で考えて戦えないなら弱いままよ。あたし弱い奴は嫌いだもの。」

「…そうか。」

そのまま桐ちゃんは玉狛支部に帰ってしまった。

私はまだ百パーセント桐ちゃんの言葉を理解出来た訳じゃないけど、桐ちゃんが私に期待してくれている事は分かった。

「子羊じゃ、女神様を守れないもんね…。」

桐ちゃんを守れるくらい強くなって、私は桐ちゃんの頼れる妹分になろう。

強くそう誓って、私は訓練室へ向かった。