手錠は研究室にある特殊な機会で取ってもらえた。
あれから三日経つが、私は忍田さんと話せないでいた。
物理的に。
会えないのだ。
前まではどんなに忙しくても一日に最低五回は会いに来ていた忍田さんが、会いに来ない。
それどころか、私が会いに行こうとするのに会えない。徹底的に避けているのだろう。
私にはサイドエフェクトがある。
忍田さんの持つ特有のオーラのようなものは感覚で覚えているから、どこにいるかは分かるのに、会えない。
そう。会えないのだ。
「…なんで逃げんだろ。」
こっそり近づいたつもりなのに、すごいスピードで忍田さんが離れていくのが分かる。
「…このまま、一生離れてっちゃうのかな。」
小さな声で発した言葉は、しっかりと私の耳に戻ってきてダメージを受けた。
「…いや、そっちがその気ならこっちだって本気でやるしかないよね。」
悲しさは一周まわって怒りに変わり、とてつもないやる気を引き出してくれた。
と言っても、どうやったら忍田さんに近づけるのかをまず考えなくてはいけない。
そもそも、忍田さんはどうやって私が近づいてくるのを察知してるんだ?
黙々と考えてみると、一つ信じ難いがそうかもしれない事が浮かんだ。
「…そんなに落ち込むくらいなら避けなきゃいいのに。」
「…はあ、慶は気楽だな。俺は名前に嫌われたんだ。顔も見たくないって言われたぞ。」
「いやいや、言ってないでしょ。」
「…確かにそこまでは言ってないよ。」
「そうか?、でも、大っ嫌いって、あれ?」
一人分増えた会話に忍田さんが焦っている。
「…名前、なんでここに……?」
「まさかとは思ったけど、私に探知機付けてましたね、忍田さん。」
サイドエフェクトも持っていないのに私が近づいてくるのが正確に分かるなんておかしい。と思い、信じたくなかったが可能性のある探知機が取りつけてありそうなものを置いてきた。
「忍田さんがくれたお守り、探知機つけてたんですね。」
「…、」
気まずそうに顔を背ける忍田さんは、三日前よりやつれている気がした。
「…忍田さん、久しぶりに手合わせしましょ。」
「…、!」
太刀川さんそっちのけでそう言うと、忍田さんは驚いた後に渋々首を縦に振った。
模擬戦ブースでは、どこからか私と忍田さんの師弟対戦を聞きつけたギャラリーが、所狭しと身を寄せ合っていた。
太刀川さん辺りが広めたのだろうか。
手合わせは、稽古を付けてもらってた時と同様に、五本勝負。先に三本取った方が勝ち。
今回はお互い孤月を使ってトリオン体でやるので、先に三回相手を落としたら勝ちだ。
ちなみに手合わせで私が忍田さんに勝ったことは一度もない。
まぐれで一本取ったことはあっても、勝てた事は無いのだ。
「…もし、この勝負で私が勝ったら、」
「賭けでもする気か?」
「玉狛支部に転属させてください。」
「っは!?そんな事を許すわけないだろう?」
「だから、勝ったらって言ってるじゃないですか。私が勝ったら、玉狛支部に転属するのを認めてもらう。」
「俺が勝ったら、何をしてくれるんだ。」
「なんでも言うこと聞きますよ。部屋に男を入れないとか、探知機を肌身離さず持ち歩くとか。」
「ぐっ、根に持ってるな…」
「だから、私に本部に居て欲しいなら、勝てばいい。」
そう言い終わったところで対戦開始の合図が鳴った。