やっぱり忍田さんは強かった。
結果は3-2の私の負け。
最後の一本で、私の首を切り落とした忍田さんは眉間に皺を寄せて苦しそうだった。
トリオン体から生身に戻って、簡易ベッドの上であー、と意味もなく声を上げる。
「名前、成長したな!忍田さんから二本も取るなんて、」
ブースから出てきた私に太刀川さんが誇らしげに話しかけてくるが、今は相手をしていられない。
適当にあしらって忍田さんの元へと向かう。
「…二本も取られてしまった。強くなったな、名前。」
ブースのソファに腰を掛けたままそう言って、寂しそうに笑って私の頭を撫でた。
「確かに、私は女だからどんなに頑張っても男の人には敵いませんよ。」
「…名前、」
「でも、あんな風に言って欲しく無かった。」
忍田さんが黙ったまま私と目線が合うように顔を上げる。
「すまない。心配するあまり、かける言葉を間違えてしまった。私はただ、名前に笑って過ごして欲しかったんだ。」
その言葉に抑えていたものが溢れ出た。
目からは涙がボロボロと零れ落ちる。
「名前は優しいから、気を使って本心を口にしないことがあるだろう?だから、私はそれを見落とさないようにしたかったんだ。」
「…ご、めんなっ、さいっ、心配、してくれ、たの、に、大っ嫌いって、」
上手く喋れていないのに、忍田さんは全部分かってるみたいに私を抱きしめてくれた。
「言っただろう、名前が嫌がっても私は離れてやらないって。大っ嫌いって言われても、私は名前が大好きだよ。」
その言葉で全部救われた気がした。
私は忍田さんに抱きついて、赤ん坊みたいに大泣きした。
泣き疲れて忍田さんに抱っこされたまま寝落ちるほどに。
その後、私と忍田さんの手合わせはボーダー親子喧嘩と名づけられ、ボーダー内で語り継がれることとなる。
翌日、手合わせの勝利条件に忍田さんが言ってきたのは、お守りを肌身離さず持ち歩く事、何かあったら逐一報告連絡相談をする事、そして忍田さんをパパと呼ぶ事だった。
「…忍田さんは、そうまでしてわたしにパパって呼ばれたいの?」
身元引受人になった当初、一度提案されたが私は却下していた。
「私は名前の事を、その、娘だと思って接しているから、その、名前も私の事を、」
「…ふふっ、照れてる忍田さんは貴重だね。」
「慣れないことをしていていっぱいいっぱいなんだ、からかわないでくれ。」
恥ずかしそうに手で顔を隠す忍田さんが愛おしく思えて、こちらまで照れてしまう。
「私はとっくに忍田さんの娘のつもりだったのかも。」
「そうか、それは良かった。…その、パパが嫌ならお父さんでもいいからな。」
何を心配しているのか、変なことを言い出すのでお互い笑って仲直りをした。
「あ、忘れるところだった。」
「何をだ?」
「私を娘と思うなら、少しは信頼して欲しい。それと、」
「…それと?」
「変に男の隊員に威嚇しないで、あと、風間さんに謝ってよね、お父さん*」
私からのお父さん呼びに赤面をして喜んでいるが、私のお願いを了承したくないのか表情が大変なことになっていた。
その後、忍田さんがボーダー隊員にお父さんと呼ばれてからかわれるのは、別のお話。