「ふんふんふーん」
「…ちゃんと帰ってくるよな?」
「ふふんふんふふーーん!」
「五時!五時に帰ってきなさい。分かったね?」
上機嫌な私と、焦って門限を決めだした忍田さん。
それもそのはず。今日は、先週からねだり続けて昨日やっと忍田さんが折れて決まった、玉狛支部へ遊びに行く日なのだ。
土曜日で学校が無いので、お昼ご飯を食べてから行くのである。
まさか説得に一週間もかかるとは思ってなかったが、奥の手のパパ呼びを使わずに済んだので及第点だろう。
朝から上機嫌で鼻歌でしかコミュニケーションをとっていないので、忍田さんはもうパニック状態である。
本部長なので本当はもっと常時シャキッとしてて欲しいが、私の前でだけ人間らしくなるので、悪い気はしない。
「あ!レイジさんだ!」
「!?木崎!?早くないか!?確かに迎えに来て欲しいとは言ったが、まだ十二時半だぞ!さっき昼食を済ませたところだ!一時だ、一時にここを出るんだ。そして五時!五時に本部に帰るんだ!」
「…あ、あの、はい、分かりました。」
いつも落ち着いているレイジさんが、忍田さんの荒ぶりっぷりを見て動揺している。
いいものを見たな。
「レイジさん!今日は玉狛支部に桐ちゃんも居ますよね?」
「ああ、何だか気まずそうにソワソワしていたが、カレーを作る準備をしていたから楽しみに待ってるはずだぞ。」
「やったー!桐ちゃんのカレー大好き!」
「おい、五時には帰ってくるんだぞ?カレーはおやつにしなさい。」
さっきから言っていた門限は結構本気だったらしい。
「おやつにカレーは重くない?」
「じゃあ、タッパーに入れて持って帰るといい。」
レイジさんの機転のおかげで、桐ちゃんのカレーを食べられそうで安心する。
その後、荒ぶり続ける忍田さんを何とか落ち着けていたら一時になったので出発する。
「それじゃあ、行ってきます。お父さん!」
「ああ、気をつけてな。名前。」
忍田さんに見送られ、レイジさんと一緒に歩き出す。
「少し見ない間に随分と仲良くなったみたいだな。」
「ああ、この前初めて喧嘩してね、その時の仲直りの条件というか、約束で呼んでるの。」
「そうか、喧嘩するほど仲がいいって言うもんな。」
そう言うと、笑って私の頭を撫でてくれた。
私の頭は撫でやすいのか、年上のボーダー隊員によく撫でられる。
その中でも忍田さんとレイジさんの撫で方はダントツで安心する。
「レイジさん、前よりなんか、大きくなりました?」
「ああ、背が伸びてきたから筋トレも始めたんだ。」
誇らしげに腕を見せてくるが、私の腕よりはるかに太くて逞しい。
「このままいくと、ゴリラみたいになりますね。」
「…ゴリラか、」
強くなるという意味で言ったのだが、レイジさんは複雑そうだった。
「でも、レイジさんが逞しくなればなるほど、頼り甲斐があって安心しますね。」
「名前は褒め上手だな。ありがとう。」
そう言ってまた頭を撫でてくれた。
筋肉ムキムキの人は少しだけ苦手なのだが、レイジさんの筋肉はきっと優しい筋肉だ。