あっという間だった。
その女の子は怪物を倒すと私を軽々と持ち抱えて地上に降り立った。
「駆けつけるのが遅れてしまって、すまない。怪我は無いかい?」
私に向かって男の人が声をかけてきた。
「私は忍田真史だ。」
怯えてしまって何も言えない私に、その人は自己紹介をしてくれた。
「…私は、苗字名前です。っ、あの、」
「そうか、苗字、名前さんと言うんだね。よく頑張ったな。」
お礼を言おうとした私の言葉を遮って、忍田さんはそう言って優しく頭を撫でてくれた。
「っう、っふ、っひ、」
張り詰めていた糸が切れてしまった。
堪えようとしていたものが込み上げてきて、私は泣いてしまった。
泣き出した私を抱えながら、女の子が口を開いた。
「とりあえず、病院に連れてけばいいのよね。」
「ああ、見た所軽傷だが、もしかしたら頭などを打っているかもしれない。」
私はどうやら病院に連れていかれるらしい。涙が溢れて止まらない中、ふと思い出した。
「っひ、あのっ、病院の、前に、警察に行きたいんですけどっ、」
泣きながらもそう伝えると、二人は訳が分からなそうにした。
「私達まだ近界民を倒さなきゃいけないから、二箇所も回ってられないわよ。」
「そうだな。…ご家族の安否確認なら病院でも出来るはずだから、」
「違います。家族はみんな、死にました。」
近界民?というのが何かはよく分からなかったが、真意を伝えようと口を挟むと、バツが悪そうな顔をされた。
「えっと、じゃあなんで警察なのよ?」
「…人を、殺してしまったので。」
いつの間にか涙は止まっていた。
はっきりとそう言う私を忍田さんはゆっくりと抱えた。
「小南、この子は私が送って来る。現場に戻ってくれ。指揮は林藤さんに任せる。」
「…了解。」
そうやり取りをすると、小南と呼ばれた女の子が去っていった。
忍田さんに抱えられたまま移動することになった。
「人を、殺してしまったと言っていたね。」
移動しながら忍田さんはゆっくりと話してくれた。
「どうしてそうなったのか、聞かせて貰えるかな?」
その声は優しかった。
またしても涙が溢れそうになったが、何とか堪えて説明をした。
母親を助けに家の方角へ行ったこと。知らない男に乱暴されたこと。自分が助かるために、その男を怪物の下敷きにして殺してしまったこと。
そこまで言うと、忍田さんは足を止めて私を見て微笑んでくれた。そして頭に手を乗せてまたゆっくりと話しかけてくれた。
「君は優しい子だ。そして、強い。」
はじめて言われた言葉に何と返していいのか分からず、俯いてしまった。
「君のしたことは、悪い事かもしれないが、罪に問われる事は無いよ。」
「…?悪いことなのに?どうして?」
「うーん、説明するとなると難しいな…」
「警察に行けば分かる?」
「警察の人にもまた同じように説明しなくちゃいけないが、大丈夫?」
私が頷くと忍田さんは心配そうな顔をして移動を再開した。