最近の私にはハマっている事がある。
「太刀川…んー、タッチ先輩、慶パイセン、たっちっち、んー、」
「…なあ、別に無理に付けなくて良くね?」
「えーー、あだ名の方が仲良さげでしょ?」
「いや、あだ名付けるくらいなら下の名前で呼んでくれよ。」
そう、最近の私は人にあだ名を付けるのにハマっているのです。
先日、クラスの仲のいい子同士があだ名で呼び合っているのを見て、気づいてしまった。
呼び方を変えただけでめちゃ仲良さそうに見える!
という事に。
それからというもの、初対面の人にはとりあえずあだ名を付けて呼んでいる。
そして、太刀川さんみたいな、もう呼び名が確定している人にもあだ名を付けようと思うのだ。
「んー、慶さん?」
「いや、なんかめっちゃ距離をら感じる。」
「えー、じゃあ、慶ちゃん!」
「…ちゃん付けか。まあいいや、それで!」
こんな感じでボーダー内であだ名を決めて回っている。
とりあえず太刀川さんのあだ名は決まったので、廊下にいる忍田さんがこちらに来る前に退散する。
こういう時に私のサイドエフェクトは便利である。
「おい、名前。」
「ん、っと、二宮さん?」
名前を呼ばれたので振り返れば二宮が立っていた。腕を組んで何か言いたそうだ。
「……」
「…何か用ですか?」
「…あだ名、」
「…は?」
私が聞き返すと二宮さんはカッと目を見開いて私に叫ぶように言ってきた。
「俺にもあだ名つけろ!」
「………え、?」
私の中で二宮さんは頭固くて、才能あるのを自覚してるからプライドがエベレスト級なクールぶってる年上って印象だった。
それ故に二宮さんの言った言葉の意味が理解出来ず、またも聞き返してしまうと、とうとう赤面して顔を背けてしまった。
「あの、あだ名って言うのは…」
「お前、最近親しい奴にあだ名付けて回ってるんだろ、」
「…あ、あー、、」
なるほど、どうやら二宮さんは私があだ名を付けるのにハマっていることをどこかで聞いて、なかなか私が来ないから自分から来たようだ。
いや、もしそうだとしたらやってる事が可愛すぎやしないか?
そもそも二宮さんにあだ名を付けて呼ぶ気なんて更々無かった。
流石の私も中学に上がってからは、目上の人を敬う事を身につけたので、あだ名で呼ぶ候補に二宮さんは入っていなかったのだ。
「…良いんですか?あだ名で呼んでも。」
「…もう長い事ボーダーでやってきたのに、俺とは親しく無いと言いたいのか?」
いやいや、長い事ってそろそろ一年くらいでしょうに、ってそもそも親しく思われてないかもしれないことに突っかかってくるのは相当私の事好きじゃないか。
こんな事を口に出して伝えてしまうと二宮さんは冗談だと気づかないだろうから、思うだけにする。
「…二宮さんがいいなら私はあだ名で呼びたいですよ。」
「そうか、じゃああだ名で呼べ。」
どこかホッとしたような表情でそう言った。
私もホッとした。
「んじゃあ、どうしよっかな〜、」
「あんま変なのは付けんなよ。」
「え?多分大丈夫ですけど、」
「ならいい。」
少しソワソワして期待の目を向けてくる。
遊んでくれるのを待ってる犬のようだ。
無いはずの耳と尻尾が見える。もちろん尻尾はちぎれんばかりにブンブンと音を立てて左右に動いている。
「今の私の流行は最後にりんをつけて呼ぶやつなんですけど、」
「りん?」
「はい、例えばるいりんとか、」
「…小佐野か、俺だったらどうなるんだ?」
「二宮さんなら、にのりんかまさりん、たかりん、みたいな?」
「…却下だ。」
お気に召さなかったらしい。
「んー、じゃあ、」
「あら、二宮くんに名前ちゃんじゃない。こんな所で何してるの?」
「あ、加古さん!」
「っち、」
廊下のど真ん中で二人で立ち止まっていたので、通りかかった加古さんが声をかけてくれた。
それに対して二宮さんは舌打ちを一つして、面倒臭そうだ。
「あら、舌打ちするなんて酷いわね。」
「うるせえ、」
「名前ちゃん、二宮くんと二人きりで、変な事されてない?」
「おい、」
「大丈夫ですよー、あだ名考えてたんです。二宮さんの。」
「あら、」
そう言うと加古さんはニヤリと笑って二宮さんを見る。二宮さんは心底ウザそうに加古さんを睨みつけて私に早くしろと言ってきた。
「んー、しっくり来ないな。にのさん、みやみや、まさりん、たかさん、さた、さた、あ!」
「「?」」
「サタン閣下。」
「はぁっ!?」
「あら素敵、それにしましょう。」
二宮さんは最高に悪い顔で私に再考する事を提案したが、加古さんは最高に良い顔でピッタリだわ。と褒めてくれた。
個人的にめちゃくちゃしっくり来て最高にイカしているあだ名だと思ったのだが、本人が本気で嫌がったのでサタン閣下は無しになり、私は二宮さんをまさくんと呼ぶ事になった。