学校から帰って、何故だかお腹が空いていたのでおやつでもと思い食堂に来た。
「あ、名前ちゃん!」
「あ、尋くん!」
そこに居たのは北添尋。つい先日ボーダーに入隊した人だ。
年上なのだが、私が出水くんのことをくん付けで呼んでいたので自分も構わないと言ってくれた。
年上の出水くんをそう呼んでいるのは、出会ったのが小学生だったからなのだが、本当に去年の私を往復ビンタしたい。
「何食べてんの〜?」
「あー、今日調理実習で作ったカップケーキだよ。ダイエットしてるって言うクラスの女子からも貰っちゃってすごい量なんだ。」
「わあ、美味しそう!」
尋くんの座っている机の上には本当に大量のカップケーキがあった。
「良かったら一緒に食べる?」
「え、いいの!?」
「うん、俺一人じゃ流石に食べきれないからね。」
「やった!食べるー!」
優しい尋くんに甘えて尋くんの隣の席に腰掛けた。カップケーキはチョコチップやクリームがかけてあるのがあって本当に美味しそうだ。
「あ、でも尋くんに食べて欲しくて渡した人もいるんじゃない?」
食べ始めてから気づいてしまった。私が食べてもいいものかと尋くんの方を見れば、尋くんはフッと笑って頭を撫でて言った。
「名前ちゃんは優しいね、でも大丈夫。それは俺が作ったやつだから。」
「尋くん、お菓子作るの上手なんだね、これすっごい美味しい。」
尋くんの言葉に安心してカップケーキを頬張れば、尋くんはまた私の頭を撫でてきた。
犬や猫じゃないぞ。と念じつつ首を傾げると、太刀川さんがこちらに来た。
「よお、何食ってんだ?」
「太刀川さん、お疲れ様です。調理実習で作ったカップケーキです、食べますか?」
「いいのか!食べる食べる!!」
「っちょ、なんで私の隣に座るの〜!?」
興奮気味に私の隣に座ろうとして来るので、私は心底嫌そうな顔をして見せた。
私の座っている椅子は広めの一人掛けで、尋くんの座っているのはちゃんとした二人掛けだ。完全に選択ミスってる。
「なんだよ、どうせ俺が北添の隣に行ったら行ったでなんか言ってくるくせに。」
「よくわかったね。迷わず尋くんの隣に座ったら、慶ちゃんが尋くんに片思いしてるって噂を流すつもりだったよ。」
「えっ、それ俺にも被害があるやつだよ。」
「えぐい噂流そうとすんなよ…。」
冗談半分でそんなことを言っていたら、太刀川さんが不思議そうに話を変えた。
「前から思ってたけど、名前って若干男性恐怖症残ってるよな?」
「え、そうだったの?」
「あはっ、そうそう。未だに男の人が近くに来るとビクッてなっちゃう〜」
茶化して言ってみたが、太刀川さんは拾う気はないらしく言いたいことを続けた。
「でも、北添は最初からビビってなかったよな?なんでだ?」
「確かに。現に名前ちゃんが男性恐怖症だって気づきませんでしたし、」
「あー、多分あれ。」
どれ?と二人で声を合わせて聞いてくるので少しだけ笑ってしまった。
「尋くんマスコットキャラクターみたいな?癒しオーラが出てるから。」
「…なんだそれ。納得いかねー、」
「なるほど、癒し系だったのか。」
太刀川さんは、俺の方が付き合い長いのに未だに出会い頭ビクつかれるぞ。と愚痴っぽく言ってきた。
確かに、無意識に太刀川さんを怖がっているかもしれない。否定は出来ない。
尋くんに至っては、男の人と言うより、尋くんという括りが私の中で確立されている。気がする。
「慶ちゃんは兄弟子だけど、尋くんはほんとのお兄ちゃんみたい。」
私の何気ないその一言に、太刀川さんはショックを受けたらしく、尋くんを連れてブースに消えていった。
あの様子だと尋くんは相当殺られるだろう。
連れていかれる尋くんにごめんねと念を送ると、それに気づいたみたいに振り向いて大丈夫。と笑ってくれた。
そのやり取りがとても嬉しくて、無意識に顔が綻んでいた。