学校から帰って来て、部屋に篭っていたらノックの音が聞こえた。
「…名前、ちょっといいか?」
「…忍田さん、、どうぞ。」
ノックする十分前から忍田さんが私の部屋の前でウロウロしているのは分かっていた。
むしろ、居なくなったら出ようと思っていたのに、ウロウロされていたせいでブースに行こうにも部屋から出れなかったのである。
まだ忍田さんとはろくに話をしていないので、とても気まずい。
「…その、元気か?」
私の部屋に入ってきて私の顔を見ることなくそう言った。
その顔は普段の様な覇気は全く感じられない。
「…元気ですよ。忍田さんがさっきから部屋の前に居るの分かるくらいには。」
少しだけからかってやろうと思ってそう言えば、忍田さんは少しだけ照れていたが自分に何かを言い聞かせてるように言った。
「…そうか、そうだな。」
「えと、何か用ですか?」
「久しぶりに、手合わせしないか?」
「…え、」
忍田さんとはことある事に結構手合わせしていた気がするが、忍田さんは改まってそう言った。
「…本気で、戦ろう。」
「…分かりました。」
忍田さんの顔があまりにも真剣だったので、思わず身震いした。
忍田さんの後を歩きながらブースに行けば、人はまばらだった。
「…名前、孤月で戦ってくれ。」
「…え、分かりました。」
何だか今日の忍田さんは妙に落ち着いていて、違和感がある。
最後に戦った時の十本勝負で私は忍田さんと引き分けた。
あと少しで六本取れそうだったが、私は少しだけ油断してしまった。
今日は忍田さんが本気でと言った。まぐれでもなんでもいい。私は忍田さんに勝ちたい。
そう思い、私は忍田さんがブースに入ったのを確認して続くようにブースに入った。
よく考えてみれば、雷蔵が新しくプログラミングしてくれたトリガーでランク戦をやるのは初めてかもしれない。
「…うん、違和感なし。バッチリじゃん。」
一人で呟くと勝負開始の合図が鳴った。
以前よりも成長した私のサイドエフェクトは、忍田さんの動きを直ぐに感知した。
直ぐに忍田さんに近づいて斬り合いを仕掛ける。
物陰から出てきた私に忍田さんの反応が少し遅れた。
…なんか、変だ。
一本目はあっさりと私が取った。
その後も手合わせは続いて、結果として私は勝ち越した。7-3だ。
「…忍田さん、手を抜きましたか?」
「いや、全力だ。」
「っ、嘘つき。」
忍田さんが嘘をついていないのは何となくだが、分かった。
でも、それを信じたくなかった。
少しサイドエフェクトが成長しただけでここまで戦力が変わるものなのだろうか?
忍田さんよりも剣速が遅い私が何故忍田さんに勝てたのか、そんなのは考えるまでもなく忍田さんが手を抜いたからだろう。
「…本気って言ったのに、」
「…名前、話がある。」
私がムッとして呟けば、忍田さんは真剣な顔でそう言って私の腕を引いた。
どこに連れていかれるのかと思ったら、空き部屋に連れていかれて忍田さんが私の両肩に手を置いて目線を合わせてしゃがんだ。
「名前、」
「…何ですか、」
「強くなったな。」
そう言って私の頭を撫でる忍田さんに無償に腹が立った。
「私が強くなったんじゃ無くて、忍田さんが手を抜いたんです!」
「違う。名前が強くなったんだ。」
駄々をこねる子供みたいに声を大きくして言えば、それを諭すように忍田さんが話す。
今の私達は本当の父娘みたいだ。
「…サイドエフェクトが成長して、空気中への反応速度が上がったんじゃないのか?」
「…?」
「こちらの動きが全部読めていた。」
言われてみれば、忍田さんがどう動くのかは何となく分かった。だから次の動きに対しての剣戟で忍田さんが対応出来なくなったところを攻め切って勝ったのだ。
「剣速はまだまだ訓練すれば伸びる。元々運動神経がいいから、直ぐに誰も追いつけないくらい強くなるな。」
「…そんなこと、」
否定しようと言葉を紡げば、何故か目尻から涙が零れた。
「…ふふ、名前は俺の前だと泣き虫だな。」
「…そうですよ、弱ったちい、泣き、虫です、」
「大丈夫。名前の強さは多くの人を救える。」
「…っ、っう、」
「名前を助けた小南のように、な?」
「…っ、っうえぇ〜!」
ついには大声で泣き出した。そんな私を躊躇無く抱きしめて、頭を優しく撫でてくれた。
薄々気づいてはいた。自分の成長が自分を一人にして行くことを。
それに気づきたくなくて、何かと理由を付けて自分の強さを認めてこなかった。
でも、私を助けてくれた桐ちゃんのように、救ってくれた忍田さんのようになれるのなら、もう認めないでいる必要が無い。
「…これからは、名前に頼りっぱなしにならないように気をつけなきゃな。」
「っ、うぅっ、たよって、くださいぃ!」
泣きながら必死に喋った顔が相当酷かったのか、忍田さんが笑いだした。
「っはは、そうだな、泣き虫が治ったらな。」
「…っうぅえぇ〜!」
強く忍田さんに抱きつけば、優しく抱き締め返してくれた。
その体温があまりにも心地よくて、私は寝落ちた。
そのせいで、後日太刀川さんに滅茶苦茶弄られるのだが、それはまた別のお話。