あの日、私がストーカー男に殺されそうになった日。
迅くんとご飯を作って一緒に食べて、迅くんが帰って、あれから二週間。
連絡は無い。
会いにも来ない。
「…薄情者。」
「え?なんか言った?」
「いえ、なんでもありません!」
私は絶賛バイト中。
殺されそうになったのなんて夢だったみたいに、私はいつも通りにバイトをして生活している。
変わったことなんて些細なことで、バイトの帰り道で待っててくれる人が居なくなった。
送ってくれる人が居なくなった。
私が馬鹿だと言って笑う人が居なくなった。
それだけ。
本当にあの日々が夢だったみたいに、ぱったりと消えてしまった。
いや、多分生きている。この前ボーダー特集が組まれてた番組に見切れてたし。
「お疲れ様でしたー!」
バイトが終わって駅に向かいながら一人確かめるみたいに呟く。
「…迅くん。」
本命でも出来たのかな?
ふとそんな思考が頭をよぎった。
途端に胸が傷んで、その現実を受け入れたくなくて俯いた。
まだ駅には着いていないのに、道端で立ち止まった私に心配して声をかけてくれる人が居たが、その優しさが私をどんどん惨めにしていく。
認めたくない。
きっと思い違いだ。
そう心の中で唱えて自分に言い聞かせる度、胸の痛みが増す。
「…迅くんっ、」
涙が溢れそうなのを必死に堪えていたら、口から言葉が漏れていた。
私の胸をこんなに痛めつける張本人の名を。
「…大丈夫?苗字さん。」
その声に私の心臓は忙しなく動き出した。
二週間、私の前に姿を表さなかった男が立っていた。
「っわ、ちょっ、泣かないで…?」
幻でも見ているみたいな気持ちの中、堪えていたものが溢れてしまった。
街ゆく人がこちらをチラチラと見ている。
迅くんは居心地が悪そうだ。
「っ、迅くんっ、」
「…うん、なあに?苗字さん、」
迅くんの腕に確かめるように、縋り付くように触れれば、迅くんは壊れ物を扱うみたいに優しい手つきで私に触れた。
そんなに優しくしなくても壊れないのに。
そんな事を頭で考えながら、私は迅くんに言葉を投げつけた。
「…なんで急に逢いに来てくれなくなったの?」
「…え、と」
「なんで連絡してくれないの!?」
思いのほか大きな声が出て、自分で驚いていると迅くんはもっと驚いた顔をした。
「…ごめんね、放っておいて。」
「何それ、私が寂しがってるみたいな言い方、」
「え、そうじゃないの?寂しかったからそんなに怒ってるんでしょ?」
「え。…え?」
迅くんの言っていることの意味がよく理解出来なくてキョトンとしていたら、迅くんが笑いだした。
人の顔見て笑うのは失礼だ。
「…ははっ、ごめんごめん。…家、行っていいかな?」
「…いいよ。」
笑顔から一瞬で真剣な顔になったので、断ることも出来ず、無愛想な返しをしてしまった。
迅くんの申し出に嬉しいと思っている自分が居る。
「大事な話があるんだ。」
その言葉に私の心臓は嫌な音を立てた。