06.I want to keep it secret.

「…はあぁ〜〜っ、」


食堂で一人ため息をつく。

「どうしたもんかな、」

手にあるのはボーダーの身体検査結果用紙だ。



ボーダー本部に部屋を貰って早3日。
本部が出来るまでは、旧本部もとい玉狛支部に部屋を作って貰って過ごしていた。
そこで私の女神様、小南桐絵との再会を果たしたのは最近一の幸せだ。


玉狛支部から本部に移る時は、今生の別れでは無いけれど、桐ちゃんと離れる事がこの上なく切なかった。

今でも心が切ない。


まあ、その話は今は置いといて、本部に部屋を貰った。


私の身元引受け人を申し出てくれた忍田さんは、本部に住まわせる気は無かったらしい。ので、私が本部に住みたいと言ったら心底残念そうな顔をして、渋々了承してくれた。

まだ三日しか経ってないのに、寂しくないか?とか、今からでも一緒に住もうか?とか言ってくれる。

なんと言うか、その申し出自体は嬉しいのだが、些か疑問である。

いくら私が孤児だからって、見ず知らずの子供と一緒に住もうとするなんて、忍田さんは何を考えているのだろうか。


忍田さんが優しいいい人なのは知っているのだが、如何せん人間不信が復活している。

それもこれも、玉狛支部で会った迅のせいだ。


まあ、この話は本当にどうでもいいので置いておく。


随分と脱線してしまったが、私がため息をついた原因は、本部に住むにあたって受けた身体検査の結果である。


割かし普通だったのだが、一箇所だけ日常生活に支障が出てもおかしくない数値がたたき出されたのである。


それは、視力。


私の視力は、0.1も無かったのである。




ぶっちゃけこの視力でも問題無く生活出来ている。

少し不便な事はあるが、大きな怪我とか事故に巻き込まれるとかは無い。

それも、生まれつき空間把握能力が長けているからだ!

大体の物や人の位置は解るし、もっと言うと、集中すれば物の材質や、その人が誰なのかも知人であれば何となく解る。

なので、困っている事と言えば、学校の授業位なものだ。


「…はあ、」


「何ため息ついてんだ?」


本日何度目かのため息を吐いていると、背後から話しかけられた。

「…太刀川慶、稽古終わったの?」


「まだ。てか、お前相変わらずビクッてすんの治んねえな。」


私に話しかけてきたのは忍田さんの弟子、太刀川慶だった。

まだ男性恐怖症な私は、男の人相手だと体がビクついてしまう。
この人が悪い人じゃない事は、話をすれば分かるのだが、そう簡単なもんじゃないらしい。


顔を歪める私を見て、ケラケラ笑いながら、私の正面に座った。

「いけないんだー、サボり…」


「ぼっちの苗字が寂しくないようにいてやるんだよ。…で、何唸ってたんだ?」


「…唸ってないし、」

言い返そうとする私には気もとめず、私の手元から身体検査結果用紙を奪い取った。

「っちょ、」


「…うわ、お前よく生きてるな。」

いくら視力が悪いからって、その言い方は無いだろう。
少々頭にきたが、後ろから鬼のような形相をした忍田さんが現れたので、黙ることにした。


「慶、随分長いトイレだな?」


「…あ、腹痛くて、」

ざまあみろ!とばかりに笑ってやろうと思ったが、忍田さんの視線が私に向いたことで、状況が変わったのを理解した。


「慶、訓練室で素振りしてなさい。名前と話をしてから戻るから。」


「…はー、い。」


忍田さんの表情は、今まで見た事がないほど寂しそうだった。