体中を這うように伝うオーラ。
これは負の感情だ。憎しみとか恨みとか悪意が入り交じって、じわじわと内側に入ってくるみたいな気持ち悪いオーラ。
コンコン
「…名前?起きてるか?そろそろ出ないと学校に遅刻するぞ?」
ドアがノックされる音が聞こえた後に、忍田さんがそう言いながら入ってきた。
体中がベタベタとして気持ちが悪い。
それだけじゃなく、やけに頭が痛いし手足がだるくて動けない。
何とか起きてる事を伝えようとベッドの上でモゾモゾと動けば、忍田さんがそれに気付いて近くに来てくれた。
「名前が寝坊するなんて珍しいな…。」
「…っ、お、父さ、んっ、」
何とか忍田さんを呼んでみたが妙に息苦しくて言葉も上手く発することが出来なかった。
そんな私の異変に気付いて忍田さんが顔色を悪くして心配してくれる。
「名前!?大丈夫か?どうした?」
「…ん、んん、っ、」
何か言おうにも頭が回らず、とりあえずうなることしか出来ない。
忍田さんは恐る恐る私のおでこに手を置いて熱を測ってくれた。
忍田さんの手の温度がひんやりとしていて心地よかった。
「…凄い熱だ。とりあえず、医務室に行って診てもらおう。」
立てるか?と聞いて優しく頭を撫でてくれる。それに酷く安心してしまった私は笑ったまま意識を手放した。
目が覚めるとそこは私の部屋では無かった。回らない頭で今の状況を推測してみるが、相変わらず頭痛が酷いので考えることは諦めた。
「…名前?目が覚めたのか!」
「…ん、」
近くに忍田さんが居たらしく、私の意識がある事に気付いて頭を撫でてくれた。
その行動に今の状況がだんだんと理解出来てきた。
高熱に魘されていた所を忍田さんに撫でられて、安心して気絶して医務室に運ばれたんだ。多分。
ここが医務室だと思えばそのようにしか見えなくなって、とりあえず医務室だと自分に言い聞かせて納得した。
さっきまで体中がベタついていたのに、今はそれを誰かが拭いてくれたのか、随分と気分が楽になった。
「医師によると精神面からくる熱だそうだ。大丈夫か?」
未だに私の頭を撫でながら心配そうな顔で忍田さんがそう言った。
「…精神面、」
「ああ、名前の場合はサイドエフェクトの影響も考えられるけどな。」
「…確かに、そうかも。」
私はどちらかと言えば自信家の類なので、精神面がやられるなんて心当たりが無さすぎた。
だが昨日、香取さんに言われた事と彼女から向けられたオーラが原因だと考えると腑に落ちた。
「…心当たりでもあるのか?昨日学校で何かあったのか?」
忍田さんのオーラが弱々しいものに変わった。
「…ふふ、心配し過ぎ。ちょっと寝れば良くなるよ。」
「…そうか。」
私の言葉に安心したのか、オーラが元に戻った。
「…ずっと気になっていたんだが、名前のサイドエフェクトが感知しているのは、生体反応なのか?」
「…え、違うけど。」
忍田さんはなんの前触れも無くサイドエフェクトについて聞いてきた。
口振りからして、私のサイドエフェクトの共有試用実験の時からの疑問だろう。
「じゃあ、なんだ、その、あのモワッとした様なのは何なんだ?」
「ああ、あれは…」
説明しようとするも、明確に解明されている訳では無いのでどう言えばいいのか分からず言葉に詰まってしまった。
「…私の感覚の話だから解りづらいだろうけど、」
「構わない。」
一応前置きをしてから頑張って話し出す。
「触覚だから空気中を伝ってる物の感触?とかなんだけど、人とか犬とか猫の動物は、生きてても死んでてもオーラ…みたいなものを出してて、」
「…オーラ?」
「うん、私がそう言ってるだけなんだけど。」
「…成程、オーラか。」
そこまで話すと忍田さんは何かを考え込み始めた。
「…オーラに違いはあるのか?」
「…うん、あるよ。そもそも指紋みたいに人によって全く違って、似てるのはあっても同じのは無い。それに加えて、感情によってすぐ変化するから、」
「感情!?」
私が詳しく説明をしようと話していたら、忍田さんが驚いたように口を挟んできた。
「…感情。」
「考えてる事が分かるのか?」
「わかんないよ。超能力じゃあるまいし。」
そう言えば忍田さんは少しだけ恥ずかしそうに頬をかいた。
「感情はオーラが共通してて、人によって違わないから楽なんだけど、負の感情は物凄い嫌な感じなんだよね…。」
そこまで説明して一息吐くと一気に眠気が襲ってきた。
忍田さんに説明している間に頭を使いすぎたのだろうか、ただ単に高熱過ぎて体力の消耗が激しいのか、理由はよく分からなかったが、忍田さんが気付いて布団を掛け直してくれた。
「話してくれてありがとうな。ゆっくり休みなさい。」
「…うん、」
私の返事を聞き終わると忍田さんが安心したように笑ったので、私も安心して瞼を閉じた。
昨日香取さんに向けられた嫌なオーラの事などすっかり忘れて深い眠りについた。