先日の入隊式を経て、香取さんと染井さんがボーダーに入隊した。
それからというもの、香取さんが私を目の敵にしていてとても居づらい。
「…あー、気分が優れない。」
「またか?」
「うん。まあ、この後広報の仕事入ってるからラッキーだよ。」
風間さんに模擬戦を申し込まれてブースに来たのだが、香取さんが私に気づいて嫌なオーラを向けてきたのである。
ブースには人が沢山いるので、かき消されても不思議はないのに、香取さんのオーラはまっすぐ私のところまで届く。
ぶっちゃけいち早く私の存在に気付いてわざわざ嫌悪してくるので、私の事好きなんじゃないか?と思っている。
「…広報の仕事まで部屋で休んでた方がいいな。」
「そうですね、そうさせて貰います。毎度対戦出来なくてごめんなさい。」
「いい、苗字の分も太刀川に付き合わせる。」
今度太刀川さんに餅でも貢ごうと思ったが、戦闘狂の彼の事なので風間さんとの対戦は願ってもないだろう。
「…ふう、何とかしないと、」
「何を?」
「…香取さんとの関係を、かな?」
私のあとをつけてきていた香取さんに向き直ってそう言えば、嫌な顔をされた。
「あんたが凄いってのは知ってるし認めてはいるわ。でも、隊も組まないで広報ばっかやってるのが気に入らないのよ。」
「…広報も大事なお仕事なので、」
へらっと笑うと香取さんが舌打ちをした。美人が舌打ちをすると迫力が増すのでやめて欲しい。
「…なんであんたなのよ。」
「…香取さんも広報の仕事したいの?」
「っ、違うわよ!」
香取さんは先程よりも怒ってしまって、どうしたらいいのか悩んでいると、また一人私に物申したい人が来た。
「…そめいさ」
「なんであんなに頑張ってる華よりも、あんたの方が幸せそうなのよ!」
「…っ、香取さ」
「なんで綺麗に着飾って周りからチヤホヤされてんのよ!」
「…あの、後ろ」
香取さんが思いの丈を叫んでいたのだが、それよりも後ろに居るもう一人の来客に気を取られて気が気じゃない。
「…葉子」
「っ、え、華?」
私と香取さんが向かい合っているその後ろに染井さんが登場したのである。
香取さんの真後ろにいたので、香取さんは気付くことなく私への不満をぶちまけていた。
静かな廊下になんとも言えない気まずい空気が流れる。
「…私!二人と友達になりたいな!」
「…はあ??」
「…いい提案ね。私も苗字さんとは仲良くなりたいわ。」
何とか空気を変えたくて脈絡の無い提案をしてみたら、染井さんは案外乗り気だった。
しかし香取さんは今にも私を殺しそうな雰囲気である。
「…私は無理よ。どうしたって好きになれないもの。」
「あら、恋人になる訳じゃないんだから好きになる必要ないでしょう?」
「えっ、」
確かに友達同士でも好き嫌いはあるとは思うが、私は出来れば好きな友達になりたい。
染井さんの怖い発言に香取さんは何か反論しようとしているが、上手く言葉が見つからないのか、言い淀んでいる。
「…あの、」
「名前!」
「えっ、おと、んん゛、本部長?」
香取さんに無理にとは言わないよ。と言おうとしたところに忍田さんが乱入してきた。何事だ。
「時計持ってないのか?もうそろそろ広報の仕事の時間だろう?根付さんが探していたぞ。」
「え、ああーー!本当だ、やばい!」
すっかり時間を気にするのを忘れてしまっていた。
焦っていた私を宥めるように頭を撫でながら、染井さんと香取さんの存在に気付いて忍田さんが声をかけた。
「君達は、この前入隊した二人だね?確か名前と同い年の、」
「…はいっ!」
「はい。」
「そうか、良かったら名前と仲良くしてやってくれ。」
「っちょ、おと、んん゛、本部長!早く行きますよ!」
何だかとても恥ずかしくなったので、忍田さんを急かして地下駐車場まで走った。
別れ際に振り返って手を振ってみたら、染井さんが手を振り返してくれた。
香取さんはしっしっと虫を追い払うみたいに手を振ってくれた。
染井さんと友達になれそうで嬉しい気持ちと、香取さんの言葉が胸に引っかかって悩みが増えてしまった。
その日の広報の仕事は取材と撮影で、何故かアンニュイな表情を撮りたいと言われたので、結果オーライとなった。