「前から思ってたけど、なんで太刀川さんは司令側に付いてんの〜?」
珍しく広報の書類整理から逃げてきた苗字が太刀川さんに話をふった。
俺も気になっていたので特に突っ込まず、由宇さんと対戦しているゲーム画面を見ながら耳は二人の会話に集中させる。
「ん?あー、あれだ。あれあれ、」
「…どれ〜?」
「遠征だよ。俺強いやつと戦りてえから。」
「…そっか、」
拍子抜けするほど単純な回答に思わず操作を誤り由宇さんに負けた。
もう一回だ。
「え、じゃあさあ、もし司令と本部長がめっちゃ険悪になっちゃって、遠征行きたいなら本部長殺せって、言われたら殺すの?」
気を取り直して今度こそ本気でやるぞ。と思ったのに、とんでもない会話を始めやがった。
いくら遠征行きたいからって師匠を殺すわけないだろ。
「…ん〜、難しい質問だな。」
いやいや!迷うんか〜い!!
またも操作を誤って由宇さんにコンボを決められる。やばいやばい。
「だよね、私も本部長に言われたら司令も太刀川さんも殺しちゃうと思うし…」
なんで!?迷わず殺すの!!??
「おっ、そしたら本気で戦れるな!」
「なんで嬉しそうなんだよ!!」
思わず口から出た言葉に由宇さんが驚いてコントローラーを落として、奇跡的に俺が勝った。
「っあー!ずるい!大声出して油断させるなんて、卑怯だあ〜!」
半泣きで俺の首を締めてくる。なんでこんな目に…。
俺と由宇さんのやり取りになんて目もくれず、二人は会話を続けている。
「てか、ひでえな。いくら忍田さんの命令だからって、仮にも元彼を迷わず殺すって、」
「今さらそれを引き合いに出すのはどうかと思うよ。」
心無しか二人の間にピリついた空気が流れた。
「名前の中では終わってっかもしんねーけど、俺はまだ…」
「帰る。」
勢いよくソファから立ち上がり、太刀川さんを睨みつけて出ていった。
太刀川さんは何を考えているのか分からないような表情で後を追って出ていった。
「…後を追うなんて高等テクニック、太刀川さんがするとは思ってませんでした。」
「いやいや、あれは気晴らしにランク戦しに行ったんだよ。いずみんもまだまだだねぇー。」
由宇さんが俺の首から手を離してくれたので、俺も何となく二人を追って作戦室から出た。
結局太刀川さんは由宇さんの言っていた通り、ランク戦に没頭していて普段通りだった。
そんな太刀川さんを避けるように、真反対の旧自室に苗字は居た。
「…もう結構経ってるのに、忍田さんって意外と未練がましいよね。」
「苗字がいつ戻って来ても良いようにだろ。」
随分と感傷的に話しかけてくるので、真面目に答えてしまった。
毒蛇に首元を這われているような緊張感の中で、俺はついに聞いてしまった。
「なんで太刀川さんと別れたんだ?」
ずっと聞きたかった。でも、聞けずにいた。
それは俺にとって知らずにいても世界が回るからだ。
高価な花瓶を落としてしまった幼子のように、驚きと罪悪感でいっぱいな表情で苗字は俺を見る。
そして、ぽつりぽつりと少しずつ言葉を選びながら話した。
聞かずにいれば俺は気を使うことも無く太刀川さんの部下として、苗字の先輩として過ごせただろうに。
自ら飛び込んでしまった。
当事者だけが知っていればいい事情に、第三者として首を突っ込んでしまった。
俺の心境に気づいた苗字の笑顔があまりにも頼りなく、今にも泣きそうだったから、俺は思わず彼女の頭を撫でた。
まるで愛猫を愛でるように。