47. Things more important than life.

「えっ、それほんとなの?」

『ああ。迅の奴後輩の為だけに風刃献上したんだよ。』

随分と慣れてしまった正式入隊日。早く来すぎた私は、暇を潰すために太刀川さんに電話してみた。
この時間太刀川さんは寝ているだろうと思っていたのだが、思いのほか起きていた。いや、この電話で起きたのかもしれない。なんか声がいつもと違う気がする。寝起きっぽい。

「…なんで?」

『…さあ、知らね。』

「ええ、その間は絶対知ってるでしょ。」

『…』

カマをかけてみたが、返事がない。それどころか端末越しに聞こえるのは規則正しい寝息だった。

寝落ちたな。

一方的に通話を切って、端末を仕舞って歩き出す。行先は司令室。

気は乗らないが、迅が風刃を手放した経緯を聞かなければ気が済まない。

だって、風刃は迅の大切な人の忘れ形見だ。初めて風刃と対峙した時の事を思い出す。

あれが生きた人間だったなんて、今でも信じられないが、確かにあれは生き物と同じオーラを放ち、自我があった。

迅の物になった時風刃は安堵していた。私にはそう感じた。

争奪戦だって、私が参加出来なかった時、迅は心のそこから安心していた。一人でも好敵手が減った事実に喜んでいた。普段飄々としている迅が、あの時だけ年相応な執着を見せた。

私はそれが何だが嬉しかったのに。

「っわ!」

「っ、すまん!」

司令室までの道のり、考え事にのめり込みすぎて前を見ていなかった。曲がり角で人とぶつかってしまった。しかも結構ガタイがいい人と。ぶつけた鼻が痛い。

「こちらこそすみません。考え事してて、」

「…そうか、気をつけるんだぞ。」

顔をあげればそこには今から会いに行こうとしていた人が居た。眉根を下げて、優しく微笑んで私を注意する。

「…はい。本部長。」

「…」

嵐山隊を抜けた日、本部から逃げて一人暮らしを始めた。その日から私はこの人の事を傷つけてばかりいる。

今だって、私が本部長と呼んだだけで、この人は悲しみと淋しさを混ぜたみたいなオーラを発してる。こうゆう時だけ自分のサイドエフェクトが、嫌になる。

「…今、会いに行こうと思っていました。」

「…そうか、何か確認事項でもあったか?」

「迅が風刃を本部に返上したと聞いたので、経緯が知りたくて。」

そう言えば本部長は険しい顔をした。

これは聞けないだろうな。そう思い、目をふせた。

「玉狛に所属している近界民を入隊させる為だ。」

「…え、あ、そうなんですか。」

てっきり話をすり替えられるか、関係ないと一蹴されると思っていたので、咄嗟に言葉が出てこなかった。

「自分から聞いた割に反応が薄いな。」

「…だって、答えてくれないと思ったから。」

懐かしい顔で笑うから、私も懐かしい話し方が出てしまった。しまったと思ったけれど、もう遅かった。本部長の手は私の頭に乗って、私の事を優しく撫でていた。

懐かしい。その感情で胸がいっぱいだった。

「名前に聞かれたらなんでも答えるよ。」

「何それ、じゃあ、迅さんは今どこにいますか?」

「…すまん、何でもは嘘だったな。知ってる事だけだ。」

迅の居場所を知らなかったのだろう。律儀に謝るものだから私は少し笑ってしまった。

久しぶりにちゃんとした会話ができた気がして、気持ちよくお別れした。

本部長に手を振り、来た道を歩きながら集中する。

本部内に迅が居ないかオーラを索敵するのだ。

私は知りたい。迅が風刃を手放した真意を。

本部長が言った理由だけかもしれないが、本人から聞きたい。

だって、風刃は迅にとって命よりも大切なもののはずだから。