02.私の愛しいいずみ

私の弟はとても姉思いで、世間一般で言うところのシスコンに当たるのだけれど、行き過ぎた言動が目立つ訳でもないし優しいし可愛らしい(見た目も中身も)し、わがままを言って困らされたこともないし、どちらかと言えば私のわがままに笑顔で応えてくれるいい子だ。

「…“いずみ”さんって、男だったんですね。姉さんの話では女々しかったから女子だと思ってました。」

「…へえー。」

数学を真面目に受け、出水が理解できなかった箇所を教えてあげて、駅前のパフェに行くことを約束させ、そして迎えた放課後。
足取りは軽く、スマホでメニューを検索し見ながら何にしようかと悩みながら校門を出かけた時、弟の泉が声をかけてきた。

なんでも、部活が無くなったので久しぶりに一緒に帰ろうと思い迎えに来てくれたらしい。

私のスマホを覗きながら一緒に悩んでいた出水の存在に顔を顰めながら、話し始めた弟に少し怯えた。

なんというか、今まで十七年生きてきて十六年一緒に育ったのに、ここまで冷たい表情をした弟を見たのは初めてだった。

よく家で友人の出水と米屋の話をするので、弟は女の子だと思っていたらしい。私の説明不足で出水が難癖つけられている。

「いっくん、あのね!この人は私の友達で、出水公平って言うの。仲いいんだよ〜。」

スマホをポケットにしまい、へらりと笑って出水の肩に手を置き紹介をする。

「…そう。いつも“僕の”姉がお世話になってます。弟の泉です。」

弟は何だかさっきよりも殺気立って自己紹介を始めた。気のせいだろうか、僕のと言った時の強調が物凄く感じた。

出水は面倒臭そうな顔で私を見る。

そんな顔されても。

初めて見る敵意100%の弟に私はたじたじである。

「…ま、今日は俺帰るわ。」

「えっ、パフェは!?」

今日は自主休校する気満々だったのに、パフェを奢ってもらうためだけに登校したのに。

信じられないものを見るような目をしていたのだろう。出水を見つめれば吹き出して笑って、また今度な。と雑に頭を叩かれた。力は全然こもっていなかったので全く痛くは無かったが、何だか子供扱いをされたみたいで心外だ。

そのやり取りを見ていた弟が私と出水の間に入ってきて、私の腕を掴んだ。

「姉さん、今日調理実習でクッキー焼いたんだ。紅茶いれるから、家で一緒に食べよ。」

さっきまでとは別人のように穏やかに笑ってそう言ってくれる。まだ私よりも少し背が低いので必然的に上目遣いになっている。水分が多い大きな瞳はキラキラとしていて、飼い犬のような愛らしさがある。

「それと、勉強も見て欲しいんだけど…。」

眉を下げて困ったように言われてしまえば母性が疼いてしまう。

「うん。早く帰ろう!」

一連のやり取りを見ていた出水は心底面白くなさそうな顔で私のほっぺをつねって帰っていった。

じゃあな。と言った表情は不満げでどこか寂しそうだった。

「パフェ明日ね!」

出水の背中に叫べば振り返ることなく右手をあげて返される。

そんなに強くつねられた訳じゃないのに、じんじんと熱を持っているような気がして摩ってみる。

「…姉さん?」

弟はとても心配したような顔をしていた。