03.私のヒーロー

四年前に近界民が出現してから、三門市は警戒区域と呼ばれる場所がある。そこは危ないから滅多に人が寄り付かないのだが、それをいいことに不良が溜まったり、密会が行われたりと割と人が出入りしている。

「…何してんだ、名前」

「…出水?」

黒いロングコートを着たクラスメイトがそこには居た。

というか、寄ってきた。

「あのね!猫!猫を助けに来たの。」

近所に住み着いている三毛猫のアコ(仮)を抱き上げて見せてやる。アコ(仮)は私には懐いていないから今も私を引っ掻き回している。会う度引っかかれるので苦手なのだが、おばぁちゃんが気にかけているので、邪険にも扱えない。

「あのなあ、ここ警戒区域だぞ。下手したら猫諸共死んでるぞ?」

「確かに。でも、この猫おばぁちゃんが気に入っててね、目の前で警戒区域に入っていくの見ちゃったら助けるでしょ?」

「助けねえ。見た感じ野良だし、名前よりは危機回避能力あるだろ。」

「確かに。そっか、なんだぁ〜!」

さっきよりも引っ掻きが激しくなったので抱えていた手を離してやると物凄いスピードで駆けていった。薄情者め。

「心配して損した。」

「…はあ、とりあえず近界民が出る前に警戒区域から出ろよ。危ねぇから。」

溜息をつきながら頭を掻く仕草が癇に障る。

いつも着ている制服とは違う格好だからか、出水だけど出水じゃないみたいで嫌悪感が少しあった。

「なんか、出水じゃないみたいで不快。」

「っはあ!?」

突然の暴言に出水は理解不能と言った表情だ。その反応を見れてやっと私の知る出水の顔が見れたので満足して警戒区域を出る為に歩き出す。

「人を罵倒しといて満足そうに笑うな。」

「あはは、だってなんか嬉しかった。」

そう言えば出水は私に背を向けてまた頭を掻いた。

「…この前のパフェ、明日なら行けるから。」

「本当に!?やった!!」

つい先日、先延ばしにされた駅前のパフェを食べに行く約束はお互いの予定が合わず未だ果たされていなかった。

「だから、気をつけて家まで帰れよ。」

「うん!!」

出水は背を向けたままだったけれど、構わず返事をして軽い足取りで警戒区域を後にする。

さっきまでの謎の不快感も消え去り、多幸感で充たされた。

約束を覚えていてくれたのが嬉しかったのか、心配されたのが喜ばしかったのか、もしかしたら、いや、きっと両方なのだろう。

些細な事が嬉しくてどうしようも無いのはどうしてだろうか。

警戒区域から出るのにあと1mのところで、ふと振り返ってみた。

出水が居るはずなんてないのに。

自分の行動がおかしくなって、一人で笑って歩き出した時、けたたましい警告音がなって目の前に真っ黒な穴が開いた。

大きくてバチバチと音を立てるそれは四年前にも沢山現れたものと同じだ。

穴からは大きくて奇怪な怪物がゆっくりと顔をのぞかせる。

さっきまであんなに軽かった足が、今は地面に根を張っているかのように動かない。

小刻みに震える体は全然言うことを聞いてくれず、その場に立ち尽くしている間に怪物が穴から全て出切ってしまった。

目のような発光している球体がギョロりと動いて、私を捉える。

大地を揺るがす大きな行進。地面が揺れる度に呼吸が乱れて汗が吹き出した。それでも私の足は動かない。それどころか、膝が折れその場に座り込んでしまった。

目からは涙が溢れて、走馬灯と言うのだろうか、弟や祖父母今は亡き両親の顔が思い出と共に浮かぶ。

家族には迷惑と心配しかかけなかったな。

後先考えず喋るせいで友達は少なかった。

地響きが止んで影が私を覆い尽くす。奇妙な物が近づいて体が宙に浮いて、私は本当に死んでしまうんだな。と理解して後悔した。

「…出水とパフェ食べたかったな。」

そう言った直後、閃光がすり抜け怪物の体が崩壊した。崩壊後重力に従って私は自由落下していく。

衝撃に備えて体を強ばらせれば誰かが私を抱きかかえた。

「…勝手に約束破んなよ。」

耳に馴染むその声は、今一番会いたかった男の子。

きっと私の好きな人。