噛みたい
 

突然だが、シノはよくソーを噛みたい衝動に駆られる。

朝起きると隣でうつ伏せになって眠っているソーの太く逞しい健康的に程よく焼けた色の首筋を見て、目覚めたばかりのしっかりと働かない脳でぼんやり、あ、噛みたい、と思う。

シノは寝惚け眼のまま、情事の後そのまま服を着ずに寝たソーの首筋に思い切り噛みつく。それはまるでライオンが美味しい生肉にかぶりつくようで、獲物であるソーは何するんだとびっくりして起きた。


それから少し時間が経って太陽が真上に登り始めた頃、その日の昼食はソーが作っていた。
シノはキッチンに立つソーの背中をソファの背もたれに腕を組んで凭れてその上に顎を乗せて眺めていた。

左手でフライパンを振って右手で持ったターナーでフライパンの中身を炒めている。どうやら今日の昼食はチャーハンのようでリビングまで食欲をそそるいい匂いが漂ってきた。

しかしシノはまたもやソーの首筋に夢中である。首周りの大きく開いた黒のVネックを着ていて、右肩辺りには先ほどシノが噛んでつけた歯形が見えた。

(もっかい噛みたいなー、次は反対側にしよう)

シノは足音をたてないようそおっと近づいて料理に集中しているソーの左の二の腕にがぶりと噛み付いた。
本当は肩に噛みつきたかったようだが、身長差がありすぎて断念した。

「なんだよさっきから。危ないだろ」

思い切り噛み付いたと言うのに、ソーはさっきからびくりともしない。シノの行為に呆れて笑うだけだ。

つまんない反応、とシノは踵を返して先ほどの定位置に戻って行った。

「変な奴だな」

自分でも意味が分からない行為をしているのはシノは分かっている。
しかし、噛み付いた時の歯に食い込むよく鍛えられた筋肉が反発してくるときの感触と、ケンカばかりのくせして意外と傷痕のないソーのきめ細やかな肌に真っ赤な歯形を残すのが楽しいのだ。ついでに噛んだ時のソーの反応も楽しんでいる。



「…ひあぁ、あ、あぁっ」

その日の夜、ベッドでセックスしている最中にシノはまたその衝動に駆られた。
上から正常位で激しく熱いものを何度も打ち付けてくるソー。その美しすぎる顔は当然目の前にあるから、恥ずかしくなって視線を少し下にやる。そしたら昼は歯形をつけられなかった左肩が見えて、ついでに右肩も激しく揺さぶられるぶれた視界で確認したら噛んだ時より薄くなってはいたがまだそこには自分が噛んだ痕があった。

「ソー…、あ、あんっ、ソー…っ」

切ない甘い声で両腕を広げて呼べばソーはそれまで激しく揺さぶっていたのを小刻みに腰を打ち付ける動きに変えて、シノの伸ばす腕の中に収まってやる。

「はっ、あ、はぁ、は」
「どうした?今日は随分と甘えただな」

強引な動きから強弱をつける小刻みな動きに変わって、荒れていた呼吸が落ち着く。落ち着いたところでシノはソーを力いっぱい抱き締めてその左肩に顔をうずめる。
風呂上がりのシャンプーのいい匂いと下半身の強烈な快楽に頭がどうにかなってしまいそうだが、シノはソーに歯を立て今度は噛み痕が薄くならないように思い切り噛み付いた。

「…っ、なに、苦しい?」

ソーはそれを痛みを堪えている合図だと受け取ったようで、突然噛んだことに驚いてはいたものの痛みはそんなに感じていないらしい。

「…な、んで…ん、いたくないの…は、あ」
「ああ。昼の続き?シノの噛む力が弱いんだよ」
「…むう」

その日の夜は三回戦まで頑張って、シノは三回戦目で失神。そのまま朝まで起きなかった。



ちゅんちゅん、と小鳥の囀る爽やかな朝。
シノはふと目が覚めてまず隣の温かみを確認する。ソーは抱き枕よろしくシノをそのたくましい胸の中に閉じ込めたまま未だ寝ていた。

ソーはシノから見て左側で寝ていて、ソーの自分を抱き締める腕にシノは拘束されて動けない。
今日は休日だから学校へ行かなくていい。だからもう少し寝ていようとシノは寝姿を変えてソーに背中を向けて横向きになった。

視線の先にはソーの腕が伸びている。
ごつくて大きい手のひらが目の前で無造作に開かれていて、自分の右手とソーの左手を重ね合わせてみると一回りも二回りも同じ男なのに大きさに差があった。

なんだか目が覚めてしまったシノは寝ているソーの手で遊ぶことにした。
握りかえしてこない手をぎゅっぎゅっと何度も握りしめたり、その長い指を甘噛みしたり。

そうだ、とシノは一つ悪巧みする。
ソーの左手の薬指の付け根に思い切り噛みつこう。きっと赤い歯形が結婚指輪のように見えることだろう。

そうすると決めれば躊躇なんてする必要はなく、シノは今度こそソーを痛いと言わせようと今まで噛んだ中で一番強い力で薬指に噛み付いた。一瞬で歯を離すのではなく何度もガジカジ、ガジガジ。

「…朝からまた噛んでんの?」

後ろから寝起きで掠れた呆れ声が聞こえる。
しかしその声に咎めるような棘は含まれておらずシノは起きたの、と笑って答えた。

「そんだけ指噛まれたら誰だって起きる」

いたずらっ子め、とソーは空いている右手でシノの頬を挟みむにむに摘まむ。

「でも見て、ソーの指。結婚指輪してるみたい」

頬をつままれたまま、ほらとシノが指差すソーの左手の薬指はガタガタの赤い噛み痕がついていたがソーにはそれがシノが言うような結婚指輪のようには到底見えなかった。

「なに、指輪欲しい?」
「んー、別にそういうのじゃない」
「意味分からん」
「俺もあんまし分かんない。けど、この痕が消えたらまたつけてあげるね」

もぞもぞとソーの腕の中で首だけで後ろを、振り返って満足そうに笑うシノに、シノが満足ならそれでいいかとソーも笑った。



「結婚指輪ならさ、俺もシノにつけていいわけ?」
「え、いたいのとか無理」





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