唯一
 

シミ一つない真っ白の陶器のような肌に、どれだけ光輝く宝石より美しい透き通った金の髪。空の一部を切り取ったような瞳に高く通った鼻。その幼いながらに美しかった男の僕に親たちは「カレン」と名付けた。
そしてそれらに加えて魔力を保持していた僕は親や爺様たちにそれはそれはルイスに入学する六歳まで大切に育てられた。

成長が遅い方なのか中学生になっても伸びない身長、運動してもつかない筋肉、男だらけのルイスで僕は女役だった。
いつでもちやほやされ、甘やかされ、守られ、まるで気分はお姫様だ。たまに僻まれたりはするけど、でかい男たちが僕の美しさに魅了され、ひたすら僕の機嫌を取る姿には優越感を感じた。

そしてある日、僕は一人の男と出会った。
今まで美しいだの綺麗だの言われ育てられてきた自分が平凡に見える程、容姿が整った男。作り物ではないかと疑わせるその顔立ちには一つも粗がない。
烏の濡れ羽色の髪に、黒曜石のような鋭い瞳。その瞳に影を作るようにある睫毛はそこらの女より長い。少し日に焼けた肌にはシミもニキビもなにもなくつるりとしている。加えて真っ直ぐに伸びた鼻梁が高貴な印象を与えている。色のついた彫刻が動いていると思ったほどだ。

そして彼が噂のFクラス一の不良だと気づいた。彼は今は使われていない魔法実技の第一実験室で数人の床に倒れた不良と共に眠っていた。同じ「眠っている」でも意味は違う。きっと、床で伏せっている男たちは使い魔らしき大狼を枕にして寝ている男に喧嘩かなにかで負けたのだろう。
そして大人の男の二倍はある大狼を従えている男こそがソー・カーライル。

たまたま一人で歩いていた時にまさかこんな激レアな男と遭遇できるなんて。
僕は一目見たその瞬間にソーを好きになった。

気を失っていた男たちが目を覚まして第一魔法実技実験室から逃げ行くのと入れ替わりに僕はその部屋へ入った。
使い魔の狼が威嚇して大きく咆えたことでソーは目を覚ます。

「僕はカレン・アシュウォルト。君、ソーだよね」
「…消えろ」
「やだな、そんなに怒んないでよ」

攻撃体制に入った大狼を宥めながら僕を睨みつけるソー。

「君に一目惚れしちゃったんだ。僕と付き合わない?」
「今すぐ失せろ」
「ねえ、お願い。僕けっこう本気だよ?」
「フェン、こいつを追い出せ」
「わっ」

大狼に首根っこを咥えられ運ばれるとそのまま部屋の外に投げられた。そして大狼が息を吐くとそこに氷の壁が出来る。これで僕はもうソーに接触することができなくなった。

しかし、一度手に入れると決めたものは手に入れなくては気が済まない。その日から僕は取り巻きのネットワークを使って週に二、三度ソーとの接触を試みた。
この容姿を持って、いくらソーとは言え僕に陥落しないはずがない。それくらいの自信があったのに季節が移ろうてもソーは全く僕に靡く気配を見せなかった。

「お前、本当にしつこい」
「だから、君が僕と付き合ってくれるだけでいいって何回言ったら分かってくれるの」
「それを俺は何回拒否すればお前は諦めるんだ」

梅雨が開けて夏に差し掛かろうとした季節、じわじわと暑さを実感する中ソーは屋上の給水タンクの影で休んでいた。そばにはもちろん大狼もいる。前まで僕が姿を見せるとすぐに威嚇して首根っこ掴んで遠くへ放り投げると氷の壁を造っていた癖に最近では見向きもしない。主人が相手にしないと分かって、命じられた時だけ動く。

「一回セックスでもしてやれば気済むのか」
「は?」

そこからのソーの動きは早かった。あいていた距離を一気に詰め僕を日の当たらないせいで冷たい影のかかった地面に押し倒す。しかし背中がヒンヤリしたのは一瞬ですぐに僕の体温で地面はぬるくなった。

混乱しているうちに服を脱がされ、抵抗すれば髪を引っ張られ頬を容赦無く叩かれた。
これまでに何度か…というよりかはほぼ毎回告白する度殴られ、蹴られていた。その度に血は流したしいくつかは傷も残ってる。しかしその時は不思議と恐怖はなかった。
なのに今は同じ暴力でもその時と比べ物にならないほど目の前の男を恐ろしく感じる。今すぐ逃げたいのに、ソーが被さっているせいで身動き一つ取れないし何より恐怖で指先一本すら動かせない。

「なんだよ、急に大人しくなりやがって。俺と付き合ってこういうことがしたかったんだろ?」

あっという間だった。慣らしもされず貫かれたそこは当然裂けて流血している。何度もした抵抗のせいで顔面は殴られっぱなしで僕の自慢の美貌の面影すらない。腹だって殴られて赤く変色して、体を動かす度に刺されるような痛みが走る。

こういうことがしたかったんじゃない。そんな訳ない。
僕は他の生徒とは一線引いたこの孤高の男にも、愛されたかったのだ。
こんなセックス…セックスと呼んでいいべきなのかは分からないが、気持ちいい訳がなかった。後からこれは一般でレイプと呼ぶものだと思った。

そして、これ以降僕がソーに近づくことは当然無かった。今まで告白した時に受けた暴力とはレベルが違う。あんな行為をされてまでソーにまた近付ける程僕は勇者じゃない。結果的にソーの思惑通りになったのかもしれない。

痛かったし、苦しかったし、惨めな気持ちにもなったが、僕はソーという男の唯一を手に入れた。あの人嫌いが初めて抱いた男。愛は無かったがそのレッテルだけで僕はこの先、生きていける気がした。

なのに二年後、ソーに恋人という存在が出来た。
一年生の時に二ヶ月だけ同じクラスだったシノ・バルバーニ。その時からみんなから慕われていたミサカを独り占めしていて周りから嫌われていた奴だった。そいつが大食堂にソーと二人でぽっと現れて恋人特有の雰囲気を漂わせていたのだ。

それは僕がソーの唯一ではなくなった瞬間だった。ソーが、僕には絶対向けてくれなかった笑顔や優しさをシノに惜しげも無く与えているのが悔しくなった。

だからシノに接触して、嘘を交えながら挑発してやった。

ソーとのセックスが気持ちいい訳なんてなかった。
僕はソーに捨てられたどころか、拾ってすらもらえなかった。僕の告白は見向きすらされなかった。
シノが僕の話を受けて、ソーと別れるまではいかないでも喧嘩一つすればいいなって思った。

なのに接触したその日シノとソーは二人仲良く食堂に来ていた。
そして、ソーは僕の存在を覚えてすらいなかった。愛の証拠として見せ付けられた首元キスマーク。服や髪に隠れて見えにくかったがそれは鎖骨やうなじにもあった。シノがソーの一番だなんて、言われなくても僕が一番分かっている。僕は二番にすらなれなかった。

気が狂いそうになったと同時にここまで僕とシノに対する扱いの差を目の当たりにしたら僕には潔くソーを諦める他道はなかった。




……

この話だけ読むとソーはかなりの悪い奴になってますが元々ソーはシノのいないところでは嫌な奴です。

そしてさらっと出て来たソーの使い魔の大狼はフェンリルの幼生です。大人になったらもっと大きくなります。





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