熱帯夜
 

ソーは氷魔法が得意だ。

魔法というものは全て火、水、風、土の四つの属性に分けることができる。
その中の風魔法と水魔法を応用した氷魔法を扱える者はエリート揃いのルイスでも数える程だ。

さて、話は変わって現在ソーは自室の真っ暗な寝室の、キングサイズのベッドに横になっている。時計の針は長針短針共に真上を向いておりシノは隣で既に寝息を立てていた。


ソーは、ショックを受けていた。

理由は一つ。いつもならシノを抱き枕よろしく抱き締めて眠るのに、それを今夜は拒否されてしまったからだ。「あついからくっつかないでー」とそっぽも向かれた。なんてくだらないことだが学園最恐の問題児にとっては由々しき出来事である。

氷魔法が得意なのが比例してか基本ソーの体温は低い。水のように冷たい手でシノに触れるといつも文句を言われる。
過ごしやすい春はいつのまにか熱を帯び初夏の今、ソーの冷たい体温を求めて最初は大人しくシノもソーの抱き枕になっていたが、やはり温まるにつれソーの体温は冷たさを失いシノはじんわり寝汗をかいた。それが不快だったのだろう。

しかしソーはそれでもシノを抱きしめて眠りたい。
そして前置きで説明したようにソーは氷魔法が得意だ。

「いいか、シノが風邪引かない程度の冷気を吐け。直接当てるなよ、遠くからだ。ほんの少し寒気がする程度でいい」

寝室全体を薄い膜のような氷で覆い、その中で命令を下すのはソー、そしてその言葉をお座りしながら聞くのはソーの使い魔フェンリルである。フェンリルは少しの間召喚しないだけで体長はもう大人のフェンリルと変わらないほどまでに成長していた。

久しぶりの主人と遊びたいらしいまだ子供らしさが残るフェンリルは命令をこなした後のご褒美に期待して寝室の端からシノに向けてひんやり冷たい風を送った。

「ん…ソー…」

そしてソーの狙い通りシノは寒気を覚えソーのいる方に寝返りを打ってシーツをさらに巻き込み人肌の温もりを求めた。

待ってましたとソーはシノの首と腰に腕を回し抱き締め足を絡ませる。次は嫌がっても離さないし、シノがソーから離れない為の環境作りもばっちりだ。

「おやすみ」

しばらく口を開けて眠るシノの間抜けな寝顔を愛おしそうに眺めたソーは額に触れるだけのキスをして、目をつむった。

「がうぅ」

てっきり遊んでくれると期待していたフェンリルは幸せそうに眠ってしまった、恋人一人の為に精霊をクーラー代わりにする主人に拗ねて、ため息をひとつ吐くとつまらないと言わんばかりに伏せた。





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